「一人暮らしの高齢者」「認知症」の割合が増える未来のランドスケープをデザインする問題 その2 8050問題とコンパクトシティ

 
「医・食・住」をテーマに再開発を行って香川県高松市の丸亀町商店街


 利便性が高く、人気のJR市川駅周辺エリアでも、空き家はぽつぽつ見かけます。なかには、壁につる性の植物がびっしり付着して倒壊しそうな家もあります。駅の近くだと地価が高いので、放っておくのももったいないように第三者としては思えてしまうのですが、当事者には朽ちていく家をどうすることもできない事情があるのでしょう。

 持ち家願望については、おそらく、高度成長期からバブル崩壊までに膨れ上がっていたのではないでしょうか。高度成長期には宅地の乱開発が行われ、「不動産は必ず価値が上がる」といわれていました。いやはや、ウソでしたね……

 高度成長期には、核家族化が進みました。サラリーマン家庭では、親子3~4人がマイホームに住むというパターンが一般的でした。
 主な産業も、近隣との協同を否応なく求められる家族経営の農業や漁業などから、会社勤めへと変わり、「隣に住む家の人のことをよく知らない」というケースは珍しくありません。
 しがらみがなくなって楽になった反面、浮かび上がってきたのが空き家問題と8050問題ではないでしょうか。
累計15万部を突破した『小説8050』(著/林 真理子、新潮社)



 少し前に、50代でひきこもっていた人が亡くなったという連絡を受けました。片方の親は亡くなり、片方の親は介護が必要なので施設に入居し、親が去った一軒家で50代ひきこもりの人は一人暮らしをしていました。つまりは孤独死です。その後、家はどうなったのかは聞いていません。
 このような話をすると「実は私の親類にも……」「隣の家が……」と話し始める人がかなりいて、8050問題は決して珍しいことではないのだと実感するわけです。

 もちろん、空き家問題と8050問題がすぐにリンクするわけではありません。ただ、少子高齢化が進み、「家の中のことは家族だけで」「子どものことは親だけの責任」という自己責任・家族責任だと社会が回らなくなってきたように思えます。

 話は変わりますが、糖尿病や高血圧は、今の私たちの暮らしが人間として"異常"であることが原因だと話す医師は珍しくありません。人間の長い歴史で、いつも飢えと水不足と戦ってきた体は、動かなくても食料がたくさん手に入る状況に合っておらず、そのひずみが病気として現れるとのこと。日本で「動かなくても食料がたくさん手に入る状況」になったのは高度成長期で、昭和の初め頃までは「おなかいっぱいになるまで食べられる」人は少なかったのです。

 日本の人口は高度成長期に急速に増え、今を生きる私たちにとって「人がたくさんいるのは当たり前」「人が増えるのは当たり前」なのですが、長い歴史の中では"異常"な時間だったともいえます。

 明治以降のJR市川駅周辺エリアの地図を見ると、田畑だった場所がどんどん宅地に置き換わっていくのがわかります。昭和の初め頃は、宅地は利便性のよい駅周辺や街道沿いに集中していました。
 もしかしたら私たちの近い未来は、時間を逆行して、集約型の地域構成に戻っていくのが自然な形なのかもしれません。すると、社会、そして家族のあり方も戻っていくのかもしれません。

 子どもがひきこもりで中年になったのなら、親は早めに家や遺産を整理して、ゴミ出しなどで利便性のよい集合住宅に移るという選択。そこには見守りサービスが付帯。
 足腰に自信がなくなってきたのなら、やはり家や遺産を整理して、買い物やゴミ出しなどで利便性のよい集合住宅に移るという選択。
 
 高齢者がより安心で豊かな生活を営めるランドスケープを作ると同時に、高齢者が保有する住宅や土地資産を流動化させるのです。

 「不便な場所で、周りに知り合いもいないし病院もないけど、どうしても持ち家がいい」「家の中のことは家族だけで」は高度成長期の共同幻想で、糖尿病や高血圧のようにじわじわと私たちをむしばんでいるのかもしれません。

 2024年の高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)は29.3%で、過去最高を更新しています。しばらくの間、高齢化率の更新は続き、介護需要もどんどん増大していくでしょう。



 高齢化に対応したまちづくりの例としてメディアに多数取り上げられているのが、冒頭の写真の香川県高松市の丸亀町商店街です。

高松市の高齢化が進む中、病院をはじめとする高齢者の暮らしに欠かせない「医療」「食事」「住まい」の3つの要素を整備することで、新しい商店街の在り方を示したのがこの計画だ。
そもそも、公共交通機関の整備が不十分な地方都市では、自分で車を運転できない高齢者が毎日商店街に通うことは難しい。そこで、通わずに「住む」という解決策が考案されたのだ。
商店街には「住」の要素として、500戸からなる高齢者向けマンションが建設されている。

みんなの介護
https://www.minnanokaigo.com/news/visionary/no16/ 

「商店街地権者は、基本的に仲が悪い」(高松丸亀町 まちづくり戦略より)

 少子高齢化のまちづくりの最前線は、東京ではなく地方にあるようです。

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■参考資料
平成17年版男女共同参画白書

空き家対策と所有者不明土地等対策の一体的・総合的推進(政策パッケージ)について

ーやどかりブログー 5年間ひきこもっていた女性の引っ越しと新生活の居住支援 


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