今の日本で、ひきこもり状態は50人に1人。「準ひきこもり」とは、どんな状態を指しているのだろうか?

引きこもり146万人 2割がコロナきっかけ―内閣府調査
 内閣府は31日、15~64歳の国民の約2%に当たる約146万人が引きこもり状態にあるとの推計をまとめた。うち2割が新型コロナウイルスの流行がきっかけとしている。同府の担当者は「引きこもり状態の人は50人に1人と人ごとではない。心身のケアを視野に入れた政策を講じる」と話している。

 2023年3月31日に、上記のように内閣府が発表しています。この発表の元になったのは、「こども・若者の意識と生活に関する調査 (令和4年度)」です。

 「こども・若者の意識と生活に関する調査」は、2022年11月10日~25日に、3万人を対象に行われました(10~39歳が2万人、40~69歳が1万人)。有効回答は、10~39歳が8,555人、40~69歳だと5,214人です。

 この調査では、人生観・充実度、人とのつながり、普段の活動、外出状況などが質問事項になっています。つまりは「あなたはひきこもりですか?」とダイレクトに尋ねていません。そんな質問を受けること自体に嫌悪感を抱いてしまって、回答を拒否するケースを想定したからではないかと、勝手に推測しています。

 回答結果から、以下のように「準ひきこもり」「狭義のひきこもり」と判断し、両者を「広義のひきこもり」としています。


 ここでの、「準ひきこもり」はどんな状況を示しているのでしょうか。
 厚生労働省のサイトでは、「趣味の用事のときだけ外出する」ケースが準ひきこもりと分類されています。

 様々な要因の結果として社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)
「ふだんどのくらい外出しますか」という設問に対し、①自室からほとんど出ない 、②自室からは出るが、家からは出ない、③近所のコンビニなどには出かける、④趣味の用事のときだけ外出する、のいずれかを回答し、かつ、その状態となって6か月以上経つと回答した者を「広義のひきこもり群」と定義。(①~③が狭義のひきこもり群、④が準ひきこもり群)

 なお、「近所のコンビニなどには出かける」ケースも、ひきこもりと分類されています。『コンビニは通える引きこもりたち』(著/久世芽亜里 新潮選書)に「引きこもりと言うと、じっと家の中にいる、家から出ないというイメージではありませんか?」と書かれていました。一般的には、このイメージが強いでしょう。しかし実際は違うようです。
 ずっと自室で過ごし、親が部屋の前まで食事を運び、終わったら廊下に出してある食器を取りに行くだけで、親も何年も姿を見ていない人。
 外出はできて、買い物の時は店員と必要最低限の話はして、近所の人と道端で会えばあいさつ程度はするが、親しく会う友人がいない人。
 この両者とも引きこもりと呼ばれる人たちなのです。そして、実際の引きこもりは、後者のタイプが大半を占めているのです。

 準ひきこもりという概念は、富山国際大学国際教養学部の樋口康彦専任講師が提唱しています。2006年3月に学部の紀要に「大学生における準ひきこもり行動に関する考察 ―キャンパスの孤立者について―」という文章が掲載されました。





 上の表を見て、「準ひきこもりとニートとは、どこが違うのだろうか」と考えてしまいました。

 ニートは「15歳から34歳までの、家事・通学・就業をせず、職業訓練も受けていない者」と定義されています。しかし、ニートの高齢化は進んでいます。厚生労働省は平成31年度から支援制度を拡充し、40~44歳も含める方針を決めました。

 立命館大学の西田亮介特別招聘准教授の「ニートとひきこもり」という文章に、以下の記述があります。
最近では,若年無業者を,就職を希望し現在求職活動を行っている「求職型」,就職を希望するものの現在求職活動を行っていない「希望型」(『就業構造基本調査』の用語では,「非求職者」),就職を希望しない「非希望型」(『就業構造基本調査』の用語では,「非就業希望者」)に区分することもある。この場合,ニートは,非求職型と非希望型が該当するとされる。


○「働こう」という意志の有無にかかわらず、家事・通学・就業をせず、職業訓練も受けていない人がニート。
○他者との接触(社会参加)を極力避けるために、自宅に長時間とどまり続けている人が準ひきこもり。

 そう考えると、非希望型ニートの中には、準ひきこもりの人の割合が高い可能性があります。


 話を、冒頭の時事通信社の記事「引きこもり146万人 2割がコロナきっかけ―内閣府調査」に戻しましょう。
 記事には、「引きこもり状態の人は50人に1人と人ごとではない」という発言が掲載されていましたが、内閣府の担当者だけでなく、子どもと暮らしている親たちにとっても他人事ではありません。

 ビジネス誌でも、ひきこもりに関する特集が何度も組まれてきました。

中年ひきこもりの原因は「甘やかす親」か "親がお金持ち"だから働かないのか

40歳超の「ひきこもり」見放す社会の強烈な歪み 80代の親が50代の子を養う「8050問題」の現実

「無収入の40歳長男、43歳長女はW不良債権」年金生活の老親は3500万円貯蓄も吹き飛ぶ漆黒の未来 音楽家の夢破れ労働経験なしの長男、離婚の後遺症で病んだ長女

 以前は、子どもの問題は母親だけのせいにされがちだったため、ビジネス誌で特集が組まれているという現象に、最初は驚きました。しかし、老後の家計を考えると、子ども(中高年)を養い続けることが厳しくなることも懸念されます。そのため、ひきこもりなど子どもの問題は、両親が協力して対応する時代になっているのかもしれません。

 ただ、『コンビニは通える引きこもりたち』には、親子関係以上に外の社会との関係性が重要だと述べられています。

「親子の信頼関係を築くことを必ず前提にしないと」という今の私怨の風潮には、かなり疑問を感じます。
 そう思う理由は、大きく3つあります。
 1つ目は、私たちが実際に支援している中で、親子の信頼関係はなくても構わないと感じていることです。(中略)
 2つ目は、客観的に考えて、全ての親子が信頼関係を築くのは無理だろうということです。「親子は必ず分かり合える」という言葉は、まさに根拠のない信仰のようなものでしかないことは、歴史が示しています。(中略)
 3つ目は、引きこもりの主原因が親子関係ではないケースが、恐らく過半数を占めることです。10代ならいざ知らず、成人後に始まった引きこもりは、社会の中でうまくいかず引きこもったケースが大半です。(中略)
 そもそも自立とは、親との関係性よりも社会との関係性の方が、その人の中で強くなるということでもあります。わざわざ親との関係性を強める過程を経なくても、社会との関係性ができてしまえば、引きこもりから自立に至る可能性は十分にあるのです。
 今回のタイトルにもある準ひきこもりについてまとめると、他者とのコミュニケーション不足などが原因で、人付き合いが苦手。家族や必要最小限の会話で済む人(コンビニの店員、近所の人など)といった範囲で、人間関係が固定化してしまいがち。
 そんな傾向を持ちつつ、家族やコンビニ店員以外ともコミュニケーションを取り、ある程度のリスクを引き受けながら社会経験を増やしていくのかが、ポイントなのかもしれません。


※「ひきこもり」と「引きこもり」を併記していますが、国の資料では「ひきこもり」のため、これまで『クラナリ』では「ひきこもり」を採用しています。公的な文章などは「ひきこもり」、メディアは「引きこもり」を使っているケースが多いという印象があります。

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他人事ではない「中年ニート・ひきこもり」!家計と健康はこうやって守れ
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