前市川市長が名誉毀損で民事訴訟を提起されている件について
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| 『しょせん他人事ですから』 |
村越祐民前市川市長が、名誉毀損で民事訴訟を提起されているのだそうです。村越前市長本人が、2025年5月21日にnoteで、「私が沈黙してきた理由、そして今語る理由」というタイトルで発表していました(Xにもポスト)。それによると、2024年9月6日に訴状を受け取ったとのこと。「市職員が市議会議員から受けたとされるパワハラ」公表に関係する名誉毀損なので、私たち市民も「ああ、あれね……」とお察ししてしまいます。
というわけで、しょせん他人事ではありますが、名誉毀損について調べてみました。
まずは、どういった経緯で「市職員が市議会議員から受けたとされるパワハラ」公表に関係する名誉毀損が発生したとされるのかを、Wikipediaなどを見ながら思い出してみましょう。
2021(令和3)年2月 市議会定例会の代表質問で越川雅史市議がシャワー室に言及
2021(令和3)年5月24日 村越前市長の私設秘書が電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで千葉県警に逮捕
私設秘書は自動車レンタル会社「ワルデンクリフ」社長で、法務局に虚偽の書類を提出した疑い。
市川市内にある村越前市長の後援会事務所が家宅捜索されました。
2021(令和3)年6月 市議会定例会において大久保貴之市議が市長室用の高級家具購入に言及
情報公開請求で得た開示資料が公表されます。
村越前市長が市長室用に合計約1058万円の家具を購入していました。
2021(令和3)年8月 村越前市長は、定例記者会見の場で、越川市議から市職員にパワーハラスメントがあったと市議の実名を公表
4月に行った市職員のアンケートで、越川市議からのパワーハラスメントを訴える回答が計9人からあったと発表しました。
2022(令和4)年3月 村越前市長が市川市長選挙で落選
2022(令和4)年6月 市議会で市川市の総務部長がパワーハラスメント案件で越川市議に謝罪
市の総務部長が「嘘をつくことや公的な立場を私的な事柄に用いることは、してはならないことであると認識しています。証拠や手続きからパワーハラスメントがあったと判断するのは難しいなかで、議場で発言したことは不適切でした。改めておわびを申し上げます」と謝罪しました。
市側は、昨年8月時点では「越川市議によるパワハラ」で、「退職した職員」「病気休暇を取得した職員」「不眠や高血圧の薬を服用している職員」がいると調査内容を説明していたが、この日の質疑では、そうした職員は存在しなかったことを認め、越川市議に謝罪した。
次に、名誉毀損とは何を指しているのかを調べましょう。
名誉毀損に関係する法律は、主に以下の3条です。
刑法第230条1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。2.死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(公共の利害に関する場合の特例)第230条の2 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。2 前項の規定の適用については,公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は,公共の利害に関する事実とみなす。3 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない。
民法第709条故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法第723条他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
名誉毀損については、以下の3つが当てはまる場合に成立します。
①事実摘示
社会的評価を害する事実を具体的に示したかどうかで判断されます。
てき‐し【摘示】 の解説[名](スル)要点をかいつまんで示すこと。また、あばくこと。「其挙動常に暴横にして、事理に戻ること、多きを—せしが」〈竜渓・経国美談〉
出典:デジタル大辞泉(小学館)
刑法230条の名誉毀損罪の条文には「公然と」「事実を摘示し」「人の名誉を毀損した」と書かれています。あなたの書き込んだ文章がネット上に公開されており、不特定もしくは多数の人が読める状態であれば「公然」性が認められます。ただし、「バカ」とか「カッコつけんな」という言葉は、具体的な「事実を摘示」したことになりませんので名誉毀損罪には当たりません。名誉毀損罪に当たる「事実」の「摘示」であると言えるためには、例えば「○○さんは不倫しています」とか「△△さんは会社のお金を横領しています」というように具体性が必要です。「バカ」とか「カッコつけてる」という言葉は、単なるあなたの意見や判断に過ぎません。ただし、名誉毀損にならないからといって安心するのはまだ早いです。あなたの書き込みは侮辱罪に該当する可能性があります。
②公然性
あばかれた事実が、不特定多数の人に広まるように伝えられたかどうかで判断されます。
③名誉毀損性
あばかれた事実が、実際に社会的評価を低下させたかどうかで判断されます。
ちなみに、国会議員については「免責特権」があり、名誉毀損とはならないとのこと。市議会議員など地方議員や市長には、免責特権はありません。
では、「市職員が市議会議員から受けたとされるパワハラ」公表が名誉毀損になりそうかどうかを見ていきましょう。
①事実摘示→〇
市職員へのアンケートの中に市議によるパワハラに関する回答があったと発表したようなので、かなり具体的な内容であり、事実と思われますよね。
②公然性→〇
定例記者会見で発表しているため、当然公然。ちなみに、「市役所の一室で、市長と議長が市議にパワハラを指摘した」というような密室(?)パターンだと、公然性はないと見なされるようです。
③名誉毀損性→??
「あの人はパワハラをやった!」という発言を受けると、社会的評価が低下しそうな気がします。ただ、公表されたことで不利益を被ったかどうかというと、それで議員を辞職したわけでもないので、名誉が傷つけられたといえるのかどうかは微妙な感じ。
加えて、市川市の総務部長が公式の場で越川市議に謝罪していることも、名誉の回復に役立っているという気がします。2024年9月の時点では、訴訟を提起するほどなのかなといいますか、なんといいますか……
加えて、市川市の総務部長が公式の場で越川市議に謝罪していることも、名誉の回復に役立っているという気がします。2024年9月の時点では、訴訟を提起するほどなのかなといいますか、なんといいますか……
そして刑法230条の2「公共の利害に関する場合の特例」で、いわゆる公人(議員など)については、事実摘示・公然性・名誉毀損性があっても、以下に当てはまれば名誉毀損に当たらないとされています。
1.公共の利害に関する事実である
2.公益を図る目的がある
3.真実であることの証明がある
新しい市長になってから3年がたち、個人的にはテスラやシャワー室を含めた諸々が風化していたのですが、当事者の市議としては「そんなわけにはいかない!」というところなのでしょうか。
弁護士を描いた漫画『しょせん他人事ですから』には、「日本では名誉の価値が低いため、裁判を起こしても高い賠償金を取れるわけではない」と弁護士が説明するシーンがありました。賠償金は取れなくても、お金を出して弁護士を雇ってまでも、民事訴訟を起こしたのかと、しみじみ。
前市長については、「noteという公然の場で、あれこれ書いちゃうと、裁判では不利なんじゃないのかな」と一市民としては思うわけですが、弁護士を立てていない(本人訴訟)そうなので、「まあ、そうなのね」とお察しした次第です。
■主な参考資料
千葉・市川市長「市議がパワハラ」実名で公表 市政追及背景に?
「市議のパワハラで職員退職は誇張」千葉県市川市が市議に謝罪
本当のことでも犯罪になる?名誉毀損になる行為

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