【インタビュー】教科書より数倍おもしろい"大人の社会科見学"コミュニティ「市川街歩きの会」

「市川街歩きの会」のコンセプトは
「市川市の地理や歴史を自分の足で歩いて再発見してみましょう」です。
市川市内の地形歴史的建造物に興味を持つ人が
集まったネットコミュニティが
およそ2年前に誕生し、
現在、242名ものメンバーがいるのです。



長く住んだ市川への
恩返しの気持ちもあった
 IT(情報技術)が発展して、私たちのコミュニケーションのあり方も大きく変わりました。
 同時にコミュニティのつくり方も変わってきています。FacebookなどのSNSを利用して、コストや労力をそれほどかけずに「ネットコミュニティ」をつくることが可能になっているのです。
 実際、「市川」「いちかわ」と名前に入っているネットコミュニティは、Facebookだけでも9つほど見つかりました。
 その中の一つである「市川街歩きの会」は、2017年9月21日に発足。2019年3月29日の時点で242名がこの会に参加しています。
 名前のとおり、市川市内を自分たちの足で歩いて、街の魅力を再発見するためにできた会です。そして、年に3~4回のペースで、「市川街歩き」というイベントが開催されています。
 「この会への加入を希望している人には、まず私とFacebookの『友達』になってもらいます。それから、市川街歩きに実際に参加できるのかどうかを確認しているんです」と、市川街歩きの会を主催する原田良博さん。特別な条件はありませんが、どんな人が入会しようとしているのかは気にかけているのだそうです。

オレンジ色の帽子が目印の原田さん(写真提供/高橋良正さん)


 市川街歩きの会の運営の参考になっているのが「市川いいね!倶楽部」です。こちらもFacebookを利用したネットコミュニティで、5年もの歴史があります。
 原田さんは友人の紹介で、3年ほど前に市川いいね!倶楽部に加入しました。そして、市川商工会議所青年部に市川いいね!倶楽部が協賛する形で2016年11月13日に開催された、「ぶらり市川さんぽ」というイベントに参加したのだそうです。
 「このときは、街歩きに参加しただけでした。
 ただ、私自身は母校の『地理学会』や『千葉スリバチ学会』、『境界協会』といった、地形と歴史を探索するコミュニティで活動していました。
 せっかくだから、この機会に、市川街歩きの会を始めようと思ったんです」
 原田さんは3歳のときから市川に住み始め、大洲、八幡、東菅野、北方、原木と、市内を引っ越してきたのだそうです。
 「私にとって、長年住み続けた市川は故郷。その故郷への恩返しの気持ちもありましたね」
 こうして、原田さんは1人で市川街歩きの会を立ち上げました。ただ、Facebookの使い方がよくわからないので、市川いいね!倶楽部で知り合った人にも手伝ってもらったのだそうです。


第1回(2017年11月12日開催)では、JR下総中山駅をスタートして中山法華経寺や東山魁夷記念館などを回っていました(写真はイメージ)

6名のスタッフと
協力しながら運営
 ここまでのお話から、市川街歩きの会には以下の特徴があるとわかります。
見本となるネットコミュニティがいくつか存在した
主催者である原田さんはネットコミュニティで活動してきた経験や知識をベースに、新たにネットコミュニティを立ち上げた
原田さんは長年市川で暮らしてきたので、学校の先輩・後輩・同級生などの人脈があった
「自分の足で、ある程度の距離を歩ける」「市川の地理や歴史に興味を持っている」など、参加者の共通点が明確である
定期的に行われている街歩きで、参加者同士が顔を合わせる機会がある
 一般的に、ネットコミュニティについては、さまざまなトラブルが報告されています。例えば、議論がケンカや誹謗中傷に発展するケース、マルチ商法などの勧誘がしつこく行われるケース、発言が乏しくて立ち消えになるケースが挙げられてきました。
 市川街歩きの会では、こうしたトラブルの経験はないそうです。
 「もちろん、すべてが円滑に進んできたというわけではありません。
 街歩きの懇親会に参加を表明していたのに、当日、なんの連絡もなく欠席した人もいました。そのため、懇親会会場となるお店への予約取り消しが間に合いませんでした。この人には、会費を後日振り込んでもらっています。
 ネットコミュニティとはいえ、社会人としての最低限のルールは守ってもらわなければ困りますよね。こうした意思表示をしているからでしょうか、ルールを守れない人とは次第に疎遠になっていくんです」
 原田さんが市川街歩きの会を運営していくうえで、頭を悩ませている点はほかにあるそうです。
 「歩く場所が市川だけじゃないですか。ですから、そのうちにネタが切れそうで……」
 市川街歩きの企画立案は、原田さんが行っています。そして、6名ほどいる街歩きスタッフと企画を相談し、候補地の下見に行きます。街歩きを行う場所が決定したら、その場所について詳しい学芸員や「市川案内人の会」に連絡をして、当日の案内をお願いすることもあります。
 「私がガイドとして説明もするんですが、1人だけだと見方が偏ってしまいますよね。それじゃ、つまらないと思って」
 参加者の中にも歴史などに詳しい人がいて、そうした人が自然とガイドの役割を果たしていることもあるそうです。さまざまな観点が加わるからこそ、地理や歴史の教科書を読むよりもおもしろくて、再発見があるわけです。


第4回(2019年3月24日開催)ではJR市川駅をスタートしてアイ・リンク展望施設、真間山弘法寺、地蔵山などを回りました


長く続けて若い人に
受け継いでもらいたい
 街歩きの際に原田さんが最も注意しているのが、ケガや事故が起こらないようにすること。そのために、交通量が少ない道をルートとして選び、列の先頭・真ん中・後方にスタッフを配置して、途中で休憩を挟むように配慮がされていました。こうしたアイデアは、地理学会や千葉スリバチ学会を参考にしたのだそうです。
 「市川街歩きの後の懇親会でも、皆さんからいろいろなアドバイスをもらうんです。前回は『参加者が増えて、初参加の人も多いので、街歩きに参加しているのかどうかを見分けるための目印があったほうがいい』という意見が出ました。すると、近くにいた人が『だったら、ウチの会社で使えそうな物が余っているから、今度持ってこようか』と声をかけてくれたりして……。できるだけお金をかけない形で進めていこうと思っています」
 すごい目配り! 原田さんは観光関連の仕事に就いているのでしょうか?
 「いえ、製造メーカーの営業です」
 勤務地も東京都内で、ご自身の仕事と市川街歩きの会での活動とはまったく関連性がないそうです。もともと仕事でお酒を飲む機会が多いのに、市川街歩きの会を主催したことで、地元でのお酒の付き合いも増えてしまったとのこと。「お金と体が心配なので、最近はちょっと減らしています」と原田さんは笑っていました。
 市川街歩きには姫路や小田原など遠方からの参加者もいて、会の広がりを感じます。ただ、市川街歩きの会をどんどん大きくしていきたいという気持ちは、原田さんにはないとのこと。
 「この会を、10年、20年と長く続けていって、将来は若い人に受け継いでもらいたいんです」
 原田さんにとって市川街歩きの会はライフワークのようです。

次の街歩きも楽しみです(アイ・リンク展望施設より望む東京湾)

市川街歩きの会
〇発足
2017年9月21日
〇主催者
原田良博
〇コンセプト
市川市の地理や歴史を自分の足で歩いて再発見してみましょう
〇現在のメンバー
242人
〇主な活動
市川市内の歴史的建造物や地形を、歩いて見て回る
〇活動回数
1年に約3~4回
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