【専門家インタビュー】空き家や自宅をちょっと改装して、お店を開くのはどうでしょうか?

 少子高齢化が進む日本で、深刻化している空き家問題。
 総務省統計局が発表している「平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約」によると、空き家数は820万戸で、平成20年に比べて63万戸(8・3%)増加しています。
 総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.5%。ですから、10軒に1軒以上は空き家ということになります。そして、昭和38年から右肩上がりに空き家率は上昇してきました。

○平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/10_1.html

 そんな時代の流れの中で、「親戚が空き家を持て余しているから、その家を利用してお店を開こう」などと考える人も出てくるかもしれません。

 また、人生100年時代においては「子どもたちが独立して部屋が余っているから、自宅の一部を改装してカフェにしたい」という発想も生まれてくるでしょう。

 「いろいろとチャレンジするのは、非常に素晴らしいことです。私もぜひ応援したいのですが、取り掛かる前に『その家がどんな地域に建っているか』を調べることが大切なんです」と行政書士の高橋求さんは指摘します。
 土地には、一見しただけではわからない法律上の区分けがあります。中には、店舗や事務所として利用することが原則として規制されている地域もあるのだそうです。

 業種の中でも注意が必要なのは、飲食業。
 「土地の用途に関する都市計画法のほかに、食品衛生法も関係します。
 自宅を利用して飲食店を開くために、改装費が600万円もかかったケースを私は知っています。また、ほかに聞いた話では1500万円にまでかさんでしまったとか。『今ある家を使うから、お金がかからない』というのは、大きな誤解です」
 高橋さんから予想外の話が出てきました。空き家や自宅を使って飲食業を行う場合に、どうして高額の改装費が必要になるのか、詳しく聞いていきます。
家をそのままお店にできないの??


最初に家がある土地の
用途地域を確認しよう
 そもそも、私たちが住んでいる地域にどのようなルールがあるのでしょうか。
 「土地が無秩序に開発されると、住宅街の中でも夜中まで騒音を出したり、トラックが頻繁に出入りしたりするお店ができる可能性がありますよね。こうしたことを防いで、その土地に住む人が安全で健康的に暮らせるように、都市計画法が作られたんです。
 例えば用途地域といって、市街地が区分けされていて、建築できる建物の種類や用途が定められています」
 自分がお金を工面して購入した持ち家であっても、勝手に改装・改築をしてお店を始められるわけではないようです。

 「閑静な住宅街は、第一種低層住居専用地域である場合が多いですね。それなのに、場違いな店舗を見かけたことがあって、用途地域をちゃんと確認したのか心配になったことがあります」
 第一種低層住居専用地域では、丸ごと一棟の店舗は出せず、住宅兼店舗である必要があります。さらに、店舗として使える面積は50平方メートルまで。そして店舗部分よりも住宅部分のほうを広くしなければならないそうです。

 「自宅をお店にしたい場合や、家を借りてお店を開きたい場合は、市川市の都市計画課に行けば用途地域を教えてもらえます。まずはここに問い合わせましょう」
 最初のステップは、用途地域の確認です。

※用途地域は、市川市地図情報システム「いち案内」でも確認できます。
https://gis.city.ichikawa.lg.jp/webgis/?p=0&bt=0&mp=101-16&

飲食店を開くなら
貸店舗がお勧め
 自宅で飲食業を行うときには、注意が必要という話が出ました。これには都市計画法の用途地域に加えて、食品衛生法も関係するからだということ。
 「食品の安全性を確保することが目的である食品衛生法。この法律をもとに、営業を行う施設や設備についても細かく衛生基準が定められています。
 代表的なものとしては、自分たちの家族用のキッチンとは別に、調理場が必要になるんです。言ってしまえば、1軒の家に2つのキッチンがあるような状態ですね。
 キッチンを二重にするだけでもお金がかかります。さらに店舗の外観や客室の内装を整えたりすれば、改装費が600万円になってしまっても不思議ではありません」
 普通の家を改装して飲食店を開くには、多額の費用が必要になりそうです。

 衛生基準をクリアして飲食店をようやく開いた後も、問題が発生する可能性があると高橋さんは話します。
 「飲食店の場合、においや騒音が発生して近隣の人に注意されることは珍しくありません。
 加えて、お客さんが自転車や車を道路に勝手にとめて、トラブルになることもあります。
 そもそも、人通りがそれほど多くない住宅地では、お客さんを集めるのがとても難しいんです。ですから、広告や宣伝にもお金をかけなければいけません。
 大金をはたいて自宅を改装して、飲食店の開業にこぎつけたとしても、なかなかうまくいかないのが実情ではないでしょうか。『自宅だったら家賃がかからないから得だ』と思う気持ちは理解できますが、慎重な経営判断が必要です」
 うまくいかずに短期間で飲食業をやめると、自宅に2つもキッチンや客室がある状態を持て余しそうです。
 「ですから、『飲食業は自宅ではなく、店舗を借りて行いましょう』とアドバイスする場合があります。飲食店として使われていた店舗を居抜き(内装や内部の設備、備品などが以前の状態のままで売買されたり賃貸されたりすること)で利用するのだったら、都市計画法も食品衛生法もクリアしている可能性が高いですよね。それでも用途地域の確認は必要ですし、前の営業者が食品営業許可を取った後に施設を改造している場合もあるので、注意は必要ですが」

 小規模の教室などは、市川市の都市計画課に問い合わせたうえで自宅開業するのはOK。飲食業については、一応の目安として、もともと飲食店として使われていた店舗を借りるほうがよさそうです。
 「起業するには、強い思い入れや情熱がもちろん大事ですが、法律に関する知識は重要です。
 法律は、日本で暮らす私たちの生活の安全や権利を守るためにあるもの。面倒くさい、難しいなどと無視をしていたら、周りの人に迷惑をかけたり、食について言えば人の命を奪ったりすることになりかねません。
 法律を大切にしながら、事業を成功させてほしいと思います」
 
●プロフィール
行政書士 高橋 求

たかはし もとむ
1967年、埼玉県生まれ。会社員歴24年(システムエンジニア20年、経理担当4年)を経て、2014年に市川で行政書士事務所を開設。行政書士業務だけではなく、情報システムや事業の管理に関する事案での相談も受けている。
■たかはし行政書士事務所 http://www.takaoffice.jp/index.html

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