「行徳カワウ問題」はどのように発生したのか

 テレビ番組でも多数取り上げられた「行徳カワウ問題」。




保護区近くの電線にとまる無数のカワウ。その下を歩いてみると、生臭く魚が腐ったような臭いがして、歩道は一面真っ白、生け垣の葉っぱも白く染まっている。

歩道はカワウの糞で真っ白に悪臭が漂い道行く人たちはハンカチで鼻を抑えながら通っていました。
繁殖期に入ると鳴き声にも悩まされるといいます。

 保護区に近いマンションに住む女性(73)は「マンションの駐車場に止めた車にフンが落ち、洗浄に苦労した」と話し、「最近では自宅のベランダに巣を作ろうとしていた」とうんざりした様子だった。


 住宅地の近くにカワウが巣を作ることで、次の問題が発生しています。
○「ギイギイ」という鳴き声とフンによる生活環境の悪化(騒音と悪臭)
○食害(アユやウグイなどが食べられる漁業被害)
○フンによる樹木の枯死

 行徳だけでなく、大阪府や滋賀県、三重県などでもカワウで問題が発生していて、「ビニルひも張り」などの対策がパンフレットとしてまとめられています。

■パンフレット「隣のカワウをどうにかせんと」


写真/パブリックドメインQ

 カワウについて、全国内水面漁業協同組合連合会・環境省・バードリサーチなどの資料をまとめると、次のとおりです。

学名 Phalacrocorax carbo
※漢字では川鵜

分類 カツオドリ目ウ科
※2011年まではペリカン目ウ科 
※世界に広く分布し約40種が確認

体長 80~85cm 
※オスはメスよりもやや大きい

翼の長さ 31~34cm

体重 1.5~2.5kg

羽色 褐色がかった黒
※繁殖期になると頭部と腰部に白い繁殖羽が生じ、目の下の露出部が赤くなり、下嘴の付け根の黄色い裸出部は黒が混ざってオリーブ色に見える

生息地 内湾を中心とした沿岸部から内陸の河川、湖沼までの水域

エサ 魚
※甲殻類、両生類を食べるという報告もある
※沿岸部の海水域から汽水域、内陸部の淡水域までの幅広い水域で潜水して採食
※採食時に潜水する深さは水面から1~9.5m
※野外での採食量は、気温を24℃前後とすると、体重1kg当たり262gと推定
※人などに驚いて飛び立つ際に、胃の中の魚を吐き出して、体を軽くして飛び立つことがある

産卵数 4~5個
※巣立ち雛数は1~3羽

平均寿命 3年
※福田道雄氏の推測

 カワウの行動については、早朝から日中は単独または数羽、群れで採食し、夜間は水辺の林や湖の島などで数十羽から数万羽の集団になって眠っています。夜間は採食・移動をしません。
 日常的にねぐらと10~15km離れた採食地とを行き来し、場合によっては40km以上離れた採食地に通うこともあります。
 季節移動や幼鳥の移動分散では、都府県境を越えて数百km以上に及びます。国境を越えるような長距離の渡りは、基本的には行いません。

 日本でのカワウの仲間であるヒメウとチシマウガラスは、北海道の沿岸部の限られた地域に分布します。そしてウミウは、北海道、本州北部の沿岸部での断崖などで繁殖し、冬期には本州から九州に至る日本各地の沿岸部に渡ります。

 高度成長期よりも前には、カワウが全国的に生息していました。

 しかし、高度成長期に入ると、埋め立てや河川改修、また農薬など有害化学物質による環境汚染で、現在の絶滅危惧に相当すると推定される数に激減。1971(昭和46)年には、関東で最大だった千葉県大巌寺のコロニー(集団繁殖地)が消失しました。コロニーは愛知県鵜の山、大分県沖黒島、東京都恩賜上野動物園不忍池の3つで、3000羽以下が生息していたようです。

 この時期、行徳でも大規模な埋め立て工事が行われました。
○1960(昭和35)年12月:第1次埋立事業(二俣字新浜・原木字東片浜)(原木字西前浜・上妙典字己新開)
○1964(昭和39)年:第2次埋立事業(市川市儀兵衛新田字巽受湊字東浜地先公有水面)
○1966(昭和41)年:東浜地先埋立事業
○1967(昭和42)年:沖場地先埋立事業
○1969(昭和44)年:京葉港市川地区土地造成事業
○1975(昭和50)年3月31日:終了

 その一方で、東京湾という広大な湿地帯に飛来する水鳥を保護するために、1970(昭和45)年に「行徳近郊緑地特別保全地区」が指定されます。さらに沖合の塩浜地区の埋め立てでは、東京ドーム18個分(56ha)の行徳湿地(行徳鳥獣保護区)の造成工事も行われました。千葉県自然保護課が行徳湿地を管理しています

 東京都港区の浜離宮庭園の鴨場には、1980(昭和55)年以降にカワウが数百羽が飛来し、1990 年代にはサギ類とともにコロニーを形成して1993(平成5)年には 7296 羽が確認されました。すると鴨場周辺は悪臭が漂い、遊歩道ではフンが落ちてきて、来園者から苦情が出ました。加えて、樹齢 300年のタブノキなどが枯れ始め、鴨場の景観も損なわれてしまったのです。 

 そこで、1993(平成5)年に浜離宮庭園からのカワウを追い出すことになりました。また、追い出されたカワウが分散しないよう、浜離宮庭園から2㎞離れた無人島の第六台場へカワウの群れを移動させることにしたのです。
 1996(平成8)年に、浜離宮庭園からの追い出しに成功し、第六台場はカワウのねぐらとして利用されるようになり、2 カ月後には繁殖も始まりました。
 ただ、第六台場以外へも分散してしまったことで、関東でのねぐらの数は増え、分布域も拡大したのです。
国土地理院地図より、一部改変



 全国的に見ても、カワウの数は2000(平成12)年に5~6万羽まで回復し、2019(平成31)年にはねぐら・コロニーの数が全国で566カ所となり分布も拡大しました。
 現在、カワウは北海道から沖縄県まで全国に生息し、推定個体数は9万羽、そのうち半数以上が中部近畿に生息しています。

 千葉県によると、行徳湿地では2013(平成25)年は3084羽でしたが、2022(令和4)年以降は3倍以上の1万羽前後が生息しています。県は営巣を抑制しようと、2021年度と2022年度に、卵を冷やすドライアイスを巣に投入し、2023年度までに国道357号沿いの樹木の伐採や枝切りも行いました。
 2024年8~10月にかけて、カワウを緑地内部に誘導するため、枯死した500本の樹木の伐採とやぐら状の止まり木の設置を千葉県は行いました。しかし、11月時点で30~50羽が緑地外部の電線に止まっている状況が確認されました。
 2024(令和6)年12月には1万3843羽のカワウが確認されています。
 2025(令和7)年12月から、環境省や関東カワウ広域協議会などがカワウの繁殖を抑える実験を行っています。
関東カワウ広域協議会(環境省Webページより)

 環境省や水産庁などが関東最大のカワウの営巣地「行徳湿地」(千葉県市川市)で、ドライアイスを使った繁殖の抑制に乗り出した。卵を凍らせて 孵化ふか しないようにする。行徳湿地で越冬・繁殖したカワウは、春から夏にかけて関東各地に飛んでいき、アユなどを捕食しているとみられ、個体数を減らすことで食害を防ぐ狙いだ。


■主な参考資料
カワウのねぐらと向き合う市町村のために都道府県がすべきこと

第 35 回 市川市行徳臨海部まちづくり懇談会 議事内容

カワウのほん

カワウ繁殖抑制へ実験 市川の行徳湿地 一大生息地に 昨冬1万3843羽 専門家「増えすぎ」

カワウのねぐら除去事例 -東京都浜離宮庭園-



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