夢か、狂気か「ネオ・トウキョウ・プラン」その4 町づくりは現場主義であってほしい、これだけの理由

○鹿野山(かのうざん、君津市にある山)と鋸山(のこぎりやま、富津市にある山)を崩して、房総半島を平地にする
○鋸山を崩す際には、核爆発を利用する
○東京湾の3分の2に当たる2億坪を埋め立てる

 このような「ネオ・トウキョウ・プラン」が実行されていたら、千葉県の様相はガラリと変わっていたことでしょう。

 核爆弾で鋸山が崩されていたら、周辺地域は放射性物質で汚染されていました。農業・漁業に深刻な影響を与えていたはずです。
 また、東京湾の埋め立てで、自然浄化機能を有する干潟が消失すると、赤潮(植物プランクトンが大量発生する現象)が発生します。生態系も大きく変わるでしょう。

 なにより、千葉県全域で「限界ニュータウン」化が進んだと考えられます。限界ニュータウンとは、昭和30年代の住宅地などの乱開発が原因で、現在は空き家や荒地だらけになった、かつての分譲地です。

 ネオ・トウキョウ・プランが作られた頃の予想に反して、日本では少子高齢化が進みました。また、オイルショックその他の影響もあり、首都圏の住宅の需要が思いのほか伸びなかったわけです。
 
 市川市にも空き家問題が発生していて、所有者がよくわからない住宅が荒れ放題になっていることもあります。ネオ・トウキョウ・プランが実行されていたら、空き家問題は現在よりも一層深刻化していたはずです。
ぱくたそより

 さらに、ネオ・トウキョウ・プランによって多様な生業が消えて、失業者も増えていた可能性が考えられます。ネオ・トウキョウ・プランを収載した『東京湾2億坪埋立についての勧告』には、次の文章がありました。

 この間私は浦安町に行ってみた。(中略)その非衛生的で狭苦しい,臭い小さな住居は実に気の毒なものである。近代教育を受けて将来のある子供たちがいつまでもああいう職業に満足するわけはない。

 「ああいう職業」こそ、生業。
 ネオ・トウキョウ・プランが実行されていたら、漁業とそれに関係する生業・小商いは消えていたでしょう。
 また、近代教育を受けた子どもがさまざまな経験を得て大人になり、「ああいう職業」を選ぶこともあります。そういった職業の多様性を考慮しなければ、結果として失業を増やすことにつながります。すべての人が会社勤めや「衛生的」な仕事を望んでいるわけではないし、ドロップアウトした際のセーフティネット的な役割は生業が果たしているからです。

 ネオ・トウキョウ・プランの発案者である加納 久朗(かのう ひさあきら)氏は、東京帝国大学法科大学政治学科(現・東京大学法学部)卒業。そして、プランをまとめた産業計画会議のメンバーも「各界のトップリーダー」でエリートです。そんなエリートが集まって、机の上だけで話を進めてしまったために、ネオ・トウキョウ・プランは"非常に質のいい、緻密な漫画"のような内容になったのかもしれません。だからこそ、今もなお私たちをワクワクさせてくれるのです。

 また、時代性もあるでしょう。昭和30~40年代は、幻となった成田新幹線と東京10号線延伸新線、成田空港建設反対する「三里塚闘争」など、地元を無視した計画を立てては猛反対にあったり、頓挫したりする時代だったのです。


■参考資料
東京湾の現状、増水と影響

東京湾海域環境創造事業 【干潟の保全と再生】
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