【コミュニティカフェ「みどりTo ゆかり GREEN&WORK SHOP」吉田啓助さんインタビュー】暮らしと仕事の拠点が一緒に! 会社員でありながらコミュニティカフェの運営者になってしまった理由  

 「撤退しないのなら、やっていいよ」
 勤務先の社長の言葉で、吉田啓助さんが「絶対にやめない」と継続性を誓い、スタートさせたのがコミュニティカフェ「みどりTo ゆかり GREEN&WORK SHOP」。
 吉田さんが勤めているのは、緑化資材事業や外断熱事業に取り組む会社です。そんな会社の社員が、なぜかコミュニティカフェを運営しているわけですが、そこにはやはり紆余曲折があったのです。



仕事を通して気づいた
ハイタウン塩浜の魅力
 1960~1970年代、高度成長期に人口は増えて、日本の住宅は不足していました。政府もニーズにこたえるべく、集合住宅を建設する政策を進めました。
 ハイタウン塩浜は、こうした時代の流れの中で建設された大規模集合住宅です。
 あれから40年。建物の老朽化と住民の高齢化が進み、空き家問題も深刻化しています。
大規模集合住宅のハイタウン塩浜

 そんなハイタウン塩浜を吉田さんが初めて知ったのは、2011年のことでした。
 吉田さんが就職したのは、本社が大阪市に、そして支社が東京都豊島区にある、もともとは緑化資材や断熱建材を販売・施工する会社です。ここで吉田さんはマンション・団地の植栽管理事業を立ち上げました。
 「なんの実績もない状況でプレゼンテーションをする中、最初の仕事の機会をくださったのがハイタウン塩浜だったんです」
 植栽管理計画を立てるために、ハイタウン塩浜の管理組合の人たちとやり取りをする中で、この集合住宅の魅力に吉田さんは気づいていきます。
 「あと1年で一番上の子が小学生になるタイミングでした。
 当時住んでいた埼玉の賃貸マンションは、目の前が道路。子どもが遊ぶときは必ず妻が一緒で、片道10分ほどの公園まで出かけていました。子どもだけだと危ないですからね。
 子どもの遊び場が遠いというのは、その間家事が進まないなど母親にとって負担になるんだと思いました。
 その点、ハイタウン塩浜だと、住んでいる建物の前は車が入ってこない広場なので安心です。
 それに、とても温かい人柄の方が多いし、住民の皆さんは顔と名前がお互いにわかっているんですよね。
 これも大事なところですが、築40年なので新築と比べて安く購入できるんですよ」
 そして2013年に、吉田さん一家はハイタウン塩浜に引っ越してきました。

いい緑がある場所に
いい縁がある
 植栽管理事業とは、その名のとおり、樹木や草花を管理・育成することですが、集合住宅の場合、「植えればそれで終わり」とはならないようです。
 「そこに住んでいる人たちが樹木や草花の価値を認めていなければ、荒れていくんです。関わる人の愛情や安着の問題ですね。
 それは植物対人間だけでなく、人間対人間の関係でもあります。住んでいる人同士が関心や興味を持ち合っていると、植栽が美しい状態で保たれている確率が高いと、仕事を通して気づいたんです。いい緑がある場所には、いい縁があるんですね」
 植栽管理事業を進めていくうえで、吉田さんは集合住宅での生活経験も必要だと感じていました。
 「コミュニティの中には、暗黙の了解があります。たとえ正しいことや必要なことでも、伝える順番を間違えたら合意は取り付けられません。一見、回り道でも、踏むべきプロセスがあることを、仕事で管理組合の方々とお話しするだけでなく、ここでプライベートの時間を過ごしながら学んでいきました」
 ハイタウン塩浜第二住宅管理組合には、子育て世代の人々に住んでほしいという強い願いがありました。それを受けて、2016年に吉田さんの会社はホームページ作成を手伝って、情報発信をしていくことになりました。
 「ただ、部屋の内部や植栽の画像をホームページに載せるだけでは、人は大きく動かないことがわかりました。そこで社内でも『もっと踏み込みたいね』という声が上がっていました」
 ハイタウン塩浜に関わる会社の一員として何ができるのかを考えたときに、吉田さんの頭に浮かんだのがコミュニティスペースを運営するというアイデアだったのです。

こだわりの一つが
DIY
 当初「ハイタウン塩浜でコミュニティスペースを運営する」という吉田さんの提案は、社内でもすぐには理解を得られず、却下されました。
 「これは想定内でした。収益性とそれに伴う継続性が最大のネックだったんです。企業であるからには、利益を上げていかなければ継続性もない。継続性がなければ地域にご迷惑をおかけするだけですからね。
 ただ、会社が行っている新築事業については、今はまだよい状態ですが、今後かなり厳しくなるなと考えたんです。人口が減って建物が余ってくるのに、新築のときに使われる緑化資材や断熱材だけを販売しても事業の継続性はないのかなと。
 これからは、老朽化して空き部屋も増えているけれど、合意形成の難しさや、その規模の大きさのために壊すに壊せない集合住宅をどうするかが社会課題になり、行政だけでなく民間企業も解決のためのアイデアを出す必要性が生まれてくるんです」
 そこで吉田さんが考えたのは、3階建ての事業構想です。入り口と同時にベースとなる1階は「植栽管理」、その上に「コミュニティスペース運営」、さらに上の3階に住む部屋のリノベーションなど「暮らしのサービス」があります。段階的に事業を積み上げて住民のニーズを満たし、将来的には収益が上がるようにしたいと考えています。
 「緑の事業をしていた私たちが、人の縁作りにチャレンジするんです」
 コミュニティスペースの名称「みどりTo ゆかり」の由来はここにありました。

 コミュニティスペース運営の企画は半年の間に洗練されていき、最後の提案の後、社長が言った一言が「撤退しないのなら、やっていいよ」だったのでした。
 「社長の言葉は重かったですね。それに、私は家族と一緒にハイタウン塩浜で暮らしているわけですから、もう後戻りすることはないと決めました」
 社内で20名ほどのチームが組まれ、ハイタウン塩浜を管理しているUR(都市再生機構)と賃貸契約を結び、店舗デザインを行いました。
 「DIYでお店作りをしている会社のデザイナーと話し合って、内装を決めていきました」
 吉田さんのこだわりの一つがDIY。経費を抑えるだけでなく、住民にもDIYに参加してもらうことで、口コミでコミュニティスペースの存在が広まっていけばいいと考えたのでした。
 そして2017年11月に工事がスタートしました。木材を購入し、社員がDIYで内装工事を行いながら、住民に「参加しませんか」と呼びかけました。すると、期待どおりに、小さな子どもやそのお母さん、さらにママ友が集まってきたのです。
 その2週間後、思いがけない展開になりました。DIYに参加した人から「カフェが欲しい」という要望が出てきたのです。
 「私も、いずれはカフェができたらいいなあとは思っていました。ただ、料理や接客などの経験もないし、最初はスペース運営だけしか考えていなかったんです」
 しかし、要望にこたえたいという気持ちが強くなり、結果、カフェ仕様に設計図を作成し直したのでした。
 「コミュニティスペースとカフェとでは設備が大きく異なるので、予算オーバーになってしまいます。ですから、家具もDIYにしたんです」
 店内にあるテーブルやいす、カウンターなどは、自分たちで作ってしまいました。天板の色むらなどが、逆にいい味を出しています。
 こうして2018年1月に、みどりTo ゆかりがとうとうオープンしました。



ハイタウン塩浜が
暮らしと仕事の拠点
 現在、みどりTo ゆかりに関係している社員は10名で、カフェの運営には3~4名が交代で携わるほか、イベントのときはサポートが入ります。
吉田さんと、スタッフの星野明美さん

 働き方は「裁量労働制」に近く、個々人の仕事内容に合わせ、自分の判断で豊島区にある支社やみどりTo ゆかりに出勤したり、自宅で仕事をしたりしています。
 吉田さんはチームのリーダーとして、仕事が誰かに偏らないように注意していると話していました。
 「植栽管理もカフェ経営も、土日や夜は関係ないですからね。うっかりしていると、スタッフの1人だけが休まずに働き続けてしまう可能性もあります。ですから、働く人の温度感を見ながら、調整をしています。
 それから、コミュニティカフェである以上、コーヒーなどの値段を上げて客単価を高くすることはしたくないのです。さらに、『子育て中のお母さん』や『シニア』などとお客様の層を絞ってしまうのも、この場所のコンセプトから離れてしまいます。
 たくさんのお客様に来てほしいし、継続性のためには利益も出したい反面、地域の中でどんな存在でありたいかも追求したい。正解のない世界で日々考えていますね」
 広告にはインスタグラムとフェイスブックを使っていますが、いわゆる「バズらせる」ことは考えていないそうです。
 「インスタで話題になって、たくさんのお客様に来てもらっても、一時的なものだったら意味がないと思うんです。いつもスタッフとは『多くの人に来てもらいたいけど、来てもらい方が大事だね』と話し合っています。
 それにプロモーションにはお金をかけていません。同じ10万円あるなら、広告のために使うよりも、お店の環境を整えたり、メニューを充実させたりとお客様の満足につながることに使いたいですね」
 植栽に携わっている人ならではの言葉です。土を耕し、種をまいて、水や肥料をやり、虫害や病気に気を付けながら植物の生長を待つように、みどりTo ゆかりは運営されているのかもしれません。
 今では5人の子どもの父親である吉田さん。ハイタウン塩浜が暮らしと仕事の拠点になっています。

吉田さんのキャリアシフト



みどりTo ゆかり GREEN&WORK SHOP 
○開業年月
2018年1月
○店舗・事務所面積
100㎡
○客席数(テーブル、カウンター)
5名テーブル席1卓、4名テーブル席1卓、2名テーブル3卓、カウンター、小上がり
○家賃
非公開
○スタッフ数
10名(カフェの1日の勤務者は3~4名)
○オープンにかかった費用
700万円程度
○住所
千葉県市川市塩浜4丁目2 ハイタウン塩浜3号棟 105
○連絡先
電話・ファックス 090-7557-8705
○営業日時
10:00~17:00(火~土、不定休)


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