誤まった論法「誤謬」
誤謬とは、論理的・形式的に明らかな間違いがあり、全体として妥当ではない論証。論証は結論の正しさを主張することで、前提と結論が含まれています。
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絵で見てわかる誤謬の事典より |
「絵で見てわかる誤謬の事典」(アート・ディレクション/アリ・アルモサウィ 絵/アレヤンドロ・ジラルド)には、さまざまな例が出ていますが、ほかのさまざまな情報(https://karapaia.com/archives/52265999.html、https://agora-web.jp/archives/author/media-literacy、http://ronri2.web.fc2.com/kiben15.html、Wikipediaなど)も混ぜて、『クラナリ』なりに誤謬をまとめました。
衆人に訴える論証 Argumentum ad Populum
事実や論証ではなく、感情的に訴えかけることで人々の支持を得ようとしてり、正しいと主張したりします。
→バンドワゴン効果 Bandwagon Effect
衆人に訴える論証が成功したときに、バンドワゴン効果が得られます。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」「全米が泣いた」のように、「みんながやっているから、自分もやる」「全米が感動したから、私も感動する」というような効果です。
結果に訴える論証 Argumentum Ad Consequentiam
「我が社は業績がアップする。理由は、アップさせるために社員が頑張っているからだ」
ある前提を採用した場合の結果に基づいて、その前提の正しさを主張します。
威力に訴える論証 Argumentum ad Baculum
「Aさんと同じ営業成績に達しなければクビです。Aさんができるのだから、あなたにもできるはずです」
相手を威嚇して、自分の主張を押し付けようとします。
論点先取 Petitio Principii
「Aさんは正直な人だから、うそをつくわけがない」
証明しなければならないことが、なぜか前提の中に含まれていること。
悪魔の証明 Probatio Diabolica、Proving Non-existence/Devil's Proof
A「ツチノコは存在しないよ」
B「でも、存在しないと証明できないだろう。だから、ツチノコは存在するんだよ」
「ツチノコは存在しない」など「●●という事実がない」ことは、証明がほとんど不可能です。これが悪魔の証明。
何かが存在する、あるいは正しいと証明する代わりに、相手がそれが存在しないと証明することを求めます。
燻製ニシンの虚偽 Red Herring
A「私は、ツチノコはいると思うよ」
B「そうなんだ。民話って面白いよね」
論点をずらして、相手の注意をそらします。
人身攻撃 ad hominem、argumentum ad hominem
A「私は、ツチノコはいると思うよ」
B「あなたは学歴が低い、いわゆるバカだよね。だから、ツチノコなんていません」
ある主張に対して、その主張自体に具体的に反論するのではなく、それを主張した人物の個性や人格、信念を攻撃することで、論点をすりかえます。
名前を呼び捨てにしたり、他人をラベル付けしたり(「クズ人間」「デブ」「一人っ子」など)することも人身攻撃に含まれます。
重要な事柄から相手の注意をそらそうとする「燻製ニシンの虚偽」の一種。
おまえだって論法 Tu quoque
A「おまえのせいでこんなひどいことになった」
B「おまえだってやっただろう」
非難に非難で応じることで、「おまえだってひどいじゃないか」「おまえだって過去にやったじゃないか」と主張します。
チェリー・ピッキング cherry picking
「当社には、Aという著名な研究者がいます。ですから当社は優秀な人材がそろっているのです」
数多くの事例の中から、自らの論証に有利な事例のみを並べ立てること。都合のよい例ばかりを持ち出して、持論を強化しようとします。
また、ある特定の目的のためだけに、ほんの一部のデータや証拠だけを拾い上げて、それ以外のデータをわざと無視します。こうして、自分を有利にしようとするわけです。
白黒思考 Black or White Thinking
「Aにしますか、Bにしますか。必ずどちらかから選んでください」
実際には3つ以上の可能性があるのに、二者択一で答えさせようとします。または、両極端のことしか考えず、その中間について検討しません。
前後即因果の誤謬 Post Hoc, Ergo Poropter Hoc
A「私は、あの店が嫌いだった」
B「あなたがそう言った後で店がつぶれたのよ。だから、あなたが店をつぶしたことのよね」
因果関係はないのに、前の事象が原因となって後の事象が起きたと決めつけてしまうこと。
動くゴールポスト
A「じゃあ、これでおしまいね」
B「それならこれは?」
A「じゃあやるから。これでいいよね」
B「それならあれは?」
A(返事)
B「それなら□□は?」
A(返事)
B「それなら○○は?」
A(返事)
B「それなら△△は?」
A(返事)
相手が返答しているのに、別の質問を次々と出して、話し合いの目標がわからなくなること。
それから、話し合っている最中に、合意基準や条件を変更することも「動くゴールポスト」と呼ばれています。
事例証拠 Anecdotal Evidence
A「私は、C社の車がいいと思う」
B「金の無駄遣いになるよ。私は過去にC社の車に乗っていたけど、すぐに故障した」
個人の限定的経験や体験を、重要な根拠と考えて、無関係な別の事柄に当てはめようとすること。
不条理な還元
A「私は、こう思う」
B「ヒトラーと同じだね」
ヒトラーなど、歴史的な悪人などになぞらえて否定すること。
ショットガン議論
A「私はこういう意見です」
B「ほかの人の意見は? Cさんの意見は? Dさんの意見は? Eさんの意見は?」
A「えっと……」
次から次へと論点を繰り出して、相手が答えられないようにすること。
藁人形論法 Straw Man
A「私は、こう思っているよ」
B「ということは、私のことが嫌いなの?」
相手の意見の一部だけを誇大に解釈したり、正しく引用しなかったりすることで、ゆがめる論法。
確証バイアス Confirmation Bias
先入観や偏見で正しさを主張します。
精神的優位
A「私はこう思っています」
B「私はあなたより年上なんだけど、それは違うんじゃないかな」
自分の優位性を見せつけ議論に勝とうとすること。
権威主義
A「私はこう思っています」
B「でもこの東大の教授が、それは間違っていると言っていますよ」
"権威ある専門家"を持ち出すこと。
滑りやすい坂道 Slippery Slope Argument
A「私は中学生で、眉毛を整えています」
B「悪い兆候です。今に生徒全員がこってりとメイクをして学校にやってくるでしょう」
Aという事象が起こったら、Bという悪い事象につながるという論法。
「Aの主張を認めれば、エスカレートしてBの主張まで認めることになるから、Aは認められない」という主張で、問題は「エスカレートするのか」という点にほとんど根拠がないこと。
坂道をどんどん滑り落ちるように、あるいはドミノ倒しが次々と起こるように、歯止めが効かなくなるというような主張。
真のスコットランド人論法
A「中学生でも眉毛を整えていいと思っています」
B「ええ!? 本当に中学生ならそんな意見は言わないよ。」
「本当に〇〇だったら」「本物の〇〇だったら」「真の〇〇だったら」というような論法。
循環論法
「1年には12カ月がある。だから12カ月は1年なのである」
前提の中に結論が入っていること。Yを証明するためにXを使っているのに、Yを使ってXを証明しようとします。
感傷的誤謬
A「私はこう思う」
B「やめて。みんなを傷つけないで」
相手の罪悪感を刺激して優位に立とうとする論法。
伝統重視 Appeal to Tradition
A「それは間違っていますよ」
B「私は気にしない。だって、これまでずっとそうだったんだから」
伝統や文化的信念を使って、正しさを主張します。「これまでやってきたから、正しいんだ」と主張します。
思考停止
A「私は、こう思う」
B「その意見は複雑すぎて理解できない。だから、本当だと思えない」
無知に訴える論証 Argumentum ad Ignorantiam 、Appeal to Ignorance
A「私は、ワクチンを受ける」
B「ワクチンには将来的な影響がないと証明されていないんだよ。だから、ワクチンは有害」
まだ誰にも証明されていないことを利用して、自分の主張を正当化させること。また、相手の無知につけ込んで、主張を正当化させること。
合成の誤謬 Fallacy of Composition
「将来に備えて家計を引き締めて節約していたら、経済が回らなくなった」
個々の小さなレベルでは正しい対応をしても、社会全体で見ると悪い結果をもたらしてしまうこと。
半面真理(生半可な事実) Half Truth
「しっかりと目標を立てると、パフォーマンスが向上します」
中途半端に事実を伝えること。都合の悪い部分は隠して主張します。
上記の例文については、目標を立てるのに時間がかかり過ぎて実行に移せないケースがあるため半面真理となります。
多重質問の誤謬 Loaded Question
「あなたはいつ殺人を犯しましたか?」
多重質問とは「議論に参加する人が受け入れていない前提に基づく質問」。
上記の例文については、「殺人を行った」という前提に基づいています。これが多重質問。
統計の誤用・誤解 Misunderstanding Statistics
「モニターを行ったところ、30%以上の人が、この商品に満足しているという結果が出ています」
関係のない統計データを用いて主張をすること。また、主張するために統計を誤解・誤用すること。
上記の例文については、モニターはたったの3人で、そのうちの1人が満足と答えています。
基本比率の誤謬 base rate fallacy
事前に知っている確率を無視して、後から出てくる条件付きの確率にだけ注目してしまう心理的傾向です。
ある街のタクシーの色は2種類で、その割合は、青が15%、緑が85%だそうです。ある晩、タクシーによるひき逃げ事件が起きました。目撃者の証言によると、ひいたのは青タクシーとのことです。ところが、現場は暗かったこともあり、目撃者は色を間違える可能性があります。そこで、この目撃者の証言がどれぐらい正確かを同様の状況下でテストしたところ、正しく色を判別できるのは80%、20%は逆の色を答えることが分かりました。さて、目撃者の証言通り、青タクシーが犯人である確率はどれぐらいだと思いますか。( ) %Tversky & Kahneman (1980)より
多くの人が80%と答えますが、実際は約41%です。
〇タクシーの割合
青:15%
緑:85%
〇正しく色を判別できる割合は80%
青を青と判別する:0.15×0.8=0.12:12%
緑を青と判別する:0.85×0.2=0.17:17%
緑を緑と判別する:0.85×0.8=0.68:68%
青を緑と判別する:0.15×0.2=0.03:3%
→青と判別した割合は29%
〇青と判別した割合の中で、実際にタクシーが青だった割合
12÷29=41.37……
→約41%
連言錯誤(合接の誤謬、リンダ問題) conjunction fallacy
一般的な状況よりも特殊な状況のほうが、蓋然性(ある事象が起こる確率や、起こり得る確実性)が高いと誤判断すること。
リンダ問題は、次のものです。
リンダは31歳、独身で、積極的に発言する非常に聡明な人です。大学では哲学を専攻し、学生時代には差別や社会正義の問題に関心を持っていました。また、反核デモに参加していました。現在のリンダについて推測する場合、(A)と(B)のどちらの可能性が高いと思いますか?(A)リンダは銀行員である。(B)リンダは銀行員で、フェミニスト運動もしている。Tversky & Kahneman(1983)を一部改変
ここで多くの人が(B)と答えるのですが、実際は(A)です。
覆面男の誤謬 Masked man fallacy
「私は自分の父親が誰なのかを知っています。
覆面男は誰なのかはわかりません。
覆面男は私の父親ではありません」
「弟は父親のことをかっこいいと言いました。
父親は警察官です。
弟は警察官をかっこいいと言いました」
一部の前提に基づいて、結論付けること。
論点相違の誤謬 (論点のすり替え) ignoratio elenchi
論点(問題の中心)を誤り、論証すべき事柄と似ている事柄、またはほとんど関連のない事柄を結論としてしまいます。
わざと別の論点を持ち出して、元の論点の結論を間違った方向へ誘導する場合もあります。
※そのほかの誤謬
矛盾する前提
前提と結論の矛盾
規範的前提の欠如の誤謬
前件否定の誤謬
後件肯定の誤謬
中名辞不周延の誤謬
端名辞不周延の誤謬
換位の誤りの誤謬
発生論の誤謬
合理化、言い訳
誤った結論の導出
誤った根拠の提示
無関係の権威者に訴える誤謬
伝統に訴える誤謬
私利に訴える誤謬
多義の誤謬
曖昧語法
誤解を招く強調
不当な対照
漠然とした表現の誤用
差異なき区別
新しさに訴える誤謬
連続性の誤謬
分割の誤謬
不当な選択肢
である-べきであるの誤謬
希望的観測
原則の誤用
中間の誤謬
不当な類推
不十分なサンプル
代表的でないデータ
無知に訴える論証
反事実的な仮説
格言の誤謬
二重基準
重要証拠の除外
必要条件と十分条件の混同
因果の過剰な単純化
前後即因果の誤謬
原因と結果の混同
共通する原因の無視
ドミノの誤謬
ギャンブラーの誤謬
反証の否定
反証の無視
揚げ足取り
井戸に毒を盛る
笑いや嘲笑に訴える誤謬
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