これまで人工干潟整備事業はどうやって進んできたのか問題
![]() |
塩浜親水事業 パネル展より |
最近のニュースで、三番瀬の自然環境の再生・保全、そして地域住民が親しめる海の再生を目指して、人工干潟造成のために、塩浜三番瀬公園の護岸から広がる三番瀬の海域に砂が入れられ始めた(事前覆砂)と知りました。
市川市が東京湾の三番瀬に計画する人工干潟整備事業を巡り、同市塩浜2の塩浜三番瀬公園の護岸から広がる三番瀬の海域に沖合から砂を投入し、干潟を“再生”させる覆砂作業が9日、始まった。砂入れは8月まで続き、終了後は砂の定着状況をモニタリング調査し、来年度以降の事業方針を決める。
人工干潟とは、文字どおり、人工的に作る干潟です。
環境省のサイトによれば、人工干潟を作る主な目的は次の2つとのこと。
○親水空間、漁場・潮干狩り場、野鳥公園などの整備
○埋め立てで消失した干潟の代わり(代償措置)
![]() |
環境省「人工干潟とは」より |
広島県尾道市の尾道糸崎港では、1984(昭和59)年から1996(平成8)年にかけて国内最大規模の人工干潟が造成されたとのこと。下の写真を見ると、干潟が大きく広がっているのがわかります。
この人工干潟はアサリ漁場として利用されていて、また、絶滅が危惧されている貴重種が数多く生息しているのだそうです。
![]() |
国土交通省中国地方整備局 広島港湾・空港整備事務所「干潟整備」より |
そんな人工干潟を誰が発明したのかを調べたところ、多数の特許がヒットしました。人工干潟の作り方は、さまざまなのだと推測できます。
一方で、人工干潟の問題点も指摘されています。
そもそも、干潟ができる自然条件がない場所に干潟を作っても、干潟として定着しないため、維持するために多大な労力と資金を必要にあるということ。
なお、今回の人工干潟整備事業については、事業費が3.5 億円から 7.5 億円と試算されています。
また、ほかのところの土砂を入れることは、環境破壊に当たるという考え方も示されていました。
そこで、人工干潟整備事業はどうやって進んできたのか調べてみました。
1992(平成4)・1993(平成5)年 千葉県が三番瀬の埋め立て計画(「市川二期地区・京葉港二期地区土地造成計画」)公表(埋立面積740ha)
目的は、広域公園を利用した廃棄物の最終処分場、下水道終末処理場用地、第二東京湾岸道路、住宅・商業用地、都市再開発用地、海浜レクリエーション用地の確保
1995(平成7)年11月 千葉県知事(当時は沼田 武知事)の諮問機関である県環境会議が環境保全のあり方(「市川二期地区・京葉港二期地区土地造成計画に関する環境保全のあり方について」)を提言
1999(平成11)年6月 千葉県が三番瀬埋立事業計画の見直しを行い、縮小する計画案を公表(埋立面積740ha→101ha)
2001(平成13)年3月25日 千葉県知事選で、三番瀬の埋め立て計画の白紙撤回を公約した堂本暁子候補が当選
2001(平成13)年5月 市川市が千葉県の堂本暁子知事に海の再生と行徳臨海部の課題解決に関する要望書を提出
要望
1 人工澪の埋め戻しと、人工干潟、藻場、葦原などの整備
2 人工干潟の造成や藻場の整備などの実験の早期着手
3 漁業環境調査の実施
4 漁港の整備
5 環境学習施設の整備
6 国設鳥獣保護区とラムサール条約登録湿地にするための調整
2001(平成13)6月(4月という資料も) 千葉県の堂本暁子知事が計画の中止を表明
2001(平成13)年9月 千葉県の堂本暁子知事が計画の中止を再度表明
「埋め立ては行わず、市民参加の下で環境再生のための新たな計画作りに着手する」
2002(平成14)年1月28日 第1回三番瀬再生計画検討会議(円卓会議)開催
2004(平成16)年1月22日 三番瀬再生計画検討会議(円卓会議)が三番瀬再生計画案を千葉県に提出
2004(平成16)年12月27日 第1回三番瀬再生会議開催
2006(平成18)年12月 千葉県が三番瀬再生計画(基本計画)を策定
5つの目標
さまざまな種類の生物が昔のように生息できる「生物多様性の回復」
干潟等の再生や自然な連続性を確保する「海と陸との連続性の回復」
東京湾の水質の改善を図り、青潮の心配がない「環境の持続性及び回復力の確保」
漁業者の知恵や経験を活かした「漁場の生産力の回復」
三番瀬に多くの方が訪れ、親しめるような「人と自然とのふれあいの確保」
2007(平成19)年3月30日 千葉県が平成19年度千葉県三番瀬再生実施計画を策定
主な事業は、干潟的環境(干出域等)形成・淡水導入の検討、市川市塩浜護岸の改修、豊かな漁場への改善方法の検討、三番瀬再生国際フォーラムの開催
2008(平成20)年3月27日 千葉県が平成20年度千葉県三番瀬再生実施計画を策定
主な事業は、干潟的環境(干出域等)形成・淡水導入の検討、市川市塩浜護岸の改修、豊かな漁場への改善方法の検討
2009(平成21)年3月30日 千葉県が平成21年度千葉県三番瀬再生実施計画を策定
主な事業は、干潟的環境(干出域等)形成・淡水導入の検討・試験、自然環境調査、市川市塩浜護岸の改修、豊かな漁場への改善方法の検討
2009(平成21)年7月7日 千葉県が市川市塩浜1丁目側の隅角部で砂付け試験を実施(調査期間:平成21~23年度)
塩浜1丁目隅角部の静穏域に砂を投入
![]() |
干潟的環境形成試験についてより |
2010(平成22)年3月29日 千葉県が平成22年度千葉県三番瀬再生実施計画を策定
主な事業は、干潟的環境(干出域等)形成・淡水導入の検討・試験、自然環境調査、市川市塩浜護岸の改修、豊かな漁場への改善方法の検討
2010(平成22)年8月25日 千葉県が市川市塩浜2丁目直立護岸前面海域で干潟的環境形成試験を実施(調査期間:平成22~23年度)
![]() |
干潟的環境形成試験についてより |
評価○ 頂上付近の地盤高は維持されず、干出域も残らなかった。○ 護岸寄りに砂が移動する可能性が推察された。○ 順応的管理により、自然が回復する範囲内で行うことが可能と推察された。○ 生物相が回復、定着すれば、水質浄化が進むと推察された。○ 干出域が長期間形成されれば干出域に生息する種の回復が期待できると推察された。
2011(平成23)年4月 千葉県が千葉県三番瀬再生計画(新事業計画)を策定
34事業を4つに分類
自然環境の再生・保全
人と自然とがふれあえる三番瀬
豊かな漁場としての三番瀬の再生
三番瀬の魅力がわかる広報
![]() |
「千葉県三番瀬再生計画(新事業計画)」の策定についてより |
2015(平成27)年3月 千葉県が三番瀬干潟的環境形成検討業務委託報告書 概要版を策定
目的は、市川市塩浜2丁目地先での干潟的環境(干出域)の形成について、その効果や課題を明らかにし、方向性を検討するための基礎資料を作成すること
![]() |
三番瀬干潟的環境形成検討業務委託報告書 概要版より |
2017(平成29)年3月 千葉県が千葉県三番瀬再生計画(第3次事業計画)評価を策定
2024(令和6)年1月 市川市が地形調査を実施
2024(令和6)年11月 市川市が塩浜親水事業に伴うモニタリング調査報告書(概要版)を発表
モニタリング調査は令和 5・6 年度に実施
2025(令和7)年6月9日 市川市が人工干潟造成予定の護岸付近で砂入れの開始
※人工干潟と似たワードで人工海浜(人工ビーチ、人工海岸)がありました。
人工海岸じんこうかいがんartificial beach侵食作用を受けて砂浜が大きく失われた海岸、あるいは埋立てなどにより消失した砂浜を復原するため、砂浜を維持する目的で突堤や離岸堤などの構造物を用い、砂・砂利などを補給して人為的に造成した海岸。日本の各地で造成されている。人工海岸の造成にあたっては、計画地点における年間を通じての気象条件、波・潮汐(ちょうせき)・流れなどの海象条件、周辺における河川の状況、港湾・漁港・下水処理場など各種施設の影響を十分に調査し、自然の力を利用して、造成された砂浜海岸ができる限り良好に維持されるように設計する。補給砂の粒径は現地のそれと同等か、あるいはやや粗めのものが望ましく、水深が大きい場合には下層に砕石・砂利を投入し、上層に敷砂する。また間隔を300~500メートル程度とした突堤を設け、状況に応じて沖合いに離岸堤を設ける。海浜勾配(こうばい)は数十分の1、場合によっては水面下に没する潜堤を設けて、海岸先端の砂止めとすることもある。[堀口孝男]
小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
人工海岸については、2001年(平成13年)12月30日に兵庫県明石市の大蔵海岸(海浜公園)で、陥没事故が発生しました(明石砂浜陥没事故)。
原因は、海底に並べたケーソンの継ぎ目のゴム製防砂板が劣化して、その穴から砂が海へ流出し、表面は砂浜でも下に空洞ができていたことでした。
![]() |
中央のコンクリートの箱のようなものがケーソン |
![]() |
ケーソンをぴったりと並べて防波堤などを建設 |
2002(平成14)年4月13日に国土交通省が発表した資料では、当時供用していた国土交通省所管の人工海浜で、ケーソン構造がある砂浜は、事故があった大蔵海岸を含めて3海岸とのこと。
また、今回の三番瀬の人工干潟は、蛇篭(じゃかご)を設置するとのこと。蛇篭は、竹材や鉄線で編んだ長い籠に砕石を詰め込んだものなので、明石砂浜陥没事故のようなことは起こりにくいとクラナリは考えました。
■主な参考資料
尾道糸崎港人工干潟における底生生物の生息状況
瀬戸内海の干潟再生事業とその問題点
三番瀬埋立事業計画に対する意見書
市川二期地区埋立計画(中止)
三番瀬のこれまでの経緯
浚渫土から有害物質 市川の人工干潟造成計画 三番瀬を守る会「汚染土投入は問題」と中止訴え
関連予算上程するのに全体規模示せず 市川市、三番瀬人工干潟計画で
大蔵海岸 陥没事故調査報告書
用語の解説
東京湾の環境に関するパネル展
防波堤ができるまで ケーソン設置編
ヘッドランドと養浜工の整備効果
ケーソン構造を有する突堤で砂浜を囲んでいる人工海浜
Leave a Comment