人口減少時代のインフラ維持問題とコンパクトシティ。例えば下水道

 2025年1月28日に、埼玉県八潮市の道路が陥没した事故のニュースが流れてきました。「本格復旧には2~3年」などの報道で、これは他人事ではないと。


 そこで、千葉県市川市の下水道事業と、八潮市の事故がここまで大きくなった背景を、素人なりに調べてみました。
 下水道事業については、民営化という話もあるものの、少子高齢化・人口減少が進む今は、「拡大再生産」とは逆の縮小、つまりコンパクトシティ政策の方向性で考えたほうがよさそうだと『クラナリ』編集人は思っているところです。
 

市川市の下水道事業

 市川市でも、八潮市ほど大規模ではないものの、下水道の老朽化による陥没事故は起こっていました。

菅野処理区の下⽔道施設は1961年より整備
1972年4⽉、菅野下⽔処理場が供⽤開始
2022年4⽉にて供⽤開始より50年が経過
→取付管(陶管)の破損により道路陥没が多発
→菅野処理区の管路施設対策に重点を置いた計画書

 そのため、「市川市下水道ストックマネジメント計画」が作成されていました。市川市の下水道については、平成26年度と平成30年度の書類が非常に充実しているという印象です。


 下水道施設の整備や運営に必要な費用については、一般的に、下水道使用料や税金、企業債、国からの補助金などでまかなわれています。人口が減少すれば、下水道使用料や税金も減少するため、下水道事業のための費用も不足する可能性が出てきます。

 また、人口が減少して空き家が虫食い状態で増えていった場合、「人口密度がかなり低い地域でも、下水道などのインフラを維持するためにコストがかかる」という問題も発生するでしょう。

 私たちの日々の生活で、必ず下水は発生します。町の衛生を維持するために、下水道は必要不可欠なインフラなのですが、今の状態を将来も維持するのは、厳しい(むしろ不可能)という現実があります。また、下水道管のメンテナンスが行き届かなければ、陥没事故のリスクが高まります。

 人口減少時代のインフラ維持問題を、コンパクトなまちづくり、「ネットワーク型コンパクトシティ長崎」で対処しようとしているのが、長崎県長崎市です。

・給水区域及び排水区域(事業計画区域)については、市街化区域の線引きや立地適正化計画の見直しを踏まえ、居住の可能性がない区域を除外するなど、適正な規模に縮小するよう検討します。
・人口減少や高齢化に伴い、地域で管理する共同給水施設の維持管理が困難となっている地域については、市民健康部と連携し、地域の実情に応じた生活用水の安定確保に向けた方策を検討します。


八潮市の事故がここまで大きくなった背景

Googleマップより


国土地理院地図より、一部改変


 海なし県の埼玉県。そんな埼玉県八潮市は、東に中川、西に綾瀬川が流れる中川低地に位置しています。Googleマップだと八潮市はかなり内陸にあるイメージですが、国土地理院地図を見ると標高が低いことがわかりますよね。

 埼玉県八潮市の道路が陥没した後、埼玉県は、八潮市だけでなく、さいたま市緑区、岩槻区、川口市東部、春日部市(旧庄和町を除く)、草加市、越谷市、蓮田市、幸手市、白岡市、伊奈町、宮代町、杉戸町に下水道の使用制限を呼びかけました。

1月28日に八潮市で発生した道路陥没に伴い中川流域下水道管渠が閉塞しています。
復旧まで、さいたま市緑区、岩槻区、川口市東部、春日部市(旧庄和町を除く)、草加市、越谷市、八潮市、蓮田市、幸手市、白岡市、伊奈町、宮代町、杉戸町で、お風呂・洗濯等の排水を控えてくださるようお願いします。

https://www.pref.saitama.lg.jp/a0401/kinkyu/2025013101.html

 流域下水道とは、2つ以上の市町村を通る下水道で、都道府県が設置・管理しています。幹線管渠と終末水再生センターの基幹施設で構成され、流域内の市町村から出る下水を集めて処理しています。

 八潮市で道路陥没事故が起こったものの、中川流域下水道管渠が詰まっているので、ここに下水を流している複数の市町村に「下水自粛」が呼びかけられているということです。


 市川市内にも流域下水道が通っています。名称は「江戸川左岸流域下水道」です。


流域下水道のマンホールの蓋
市川市内の流域下水道https://www.pref.chiba.lg.jp/gs-edogawa/jigyou/documents/r03zentaikeikakuzu.pdfより抜粋

 市川市・松戸市・流山市・野田市・柏市・船橋市・浦安市・鎌ケ谷市の下水は、流域下水道を通って、江戸川第一終末処理場(千葉県市川市本行徳1399)と江戸川第二終末処理場(千葉県市川市福栄4丁目32−2)に運ばれています。

 埼玉県の流域下水道では、直径25~475cmの下水管が使われているとのこと。
 江戸川左岸流域下水道については、直径40~475cmなので、太い下水管でなんらかのトラブルが起こると、埼玉県八潮市と同様のことが発生する可能性も考えられます。つまり、市川市だけでなく、松戸市・流山市・野田市・柏市・船橋市・浦安市・鎌ケ谷市に「下水自粛」が呼びかけられるということ。
 八潮市の事故がここまで大きくなった背景の一つには、流域下水道のトラブルだったことが挙げられます。

 また、八潮市の事故現場のアスファルトの下は、サラサラの砂で「アリ地獄のよう」と表現した人もいたとのこと。これは関東平野に共通する特徴ともいえそうです。

関東平野は新第三紀以降続いている関東造盆地運動により形成された堆積盆地上に発達した。埼玉県は、この関東平野の中央から西部に位置する。 埼玉県の地形は、西側の山地と東側の平野に二分され、概ね西から東に向かって山地・丘陵地・台地・低地が順に分布している。このうち、地盤沈下の監視対象は、丘陵から台地・低地が広がる平野部である。平野部を構成する地層は、主に砂層と粘性土層の繰り返しからなり、第四紀中期更新世~現世にかけて、海水準変動の影響を受けて形成した。台地部は、洪積台地とも呼ばれ、海水準の変動によりいくつかの時代の段丘面が形成され、台地の表層はローム層が覆っている。これに対し、荒川および利根川などの河川沿いに分布する低地は、ほとんどが完新世~現世にかけて形成した新しい地層である。これらの地層は、台地を削り込んだ谷を海や河川が埋積したもので、沖積層とも呼ばれている。沖積層は工学的に問題の多い軟弱地盤を形成していることが多く、中川沿いの低地では沖積層の層厚が最大約40mに達する地域がある。これら第四紀の地層は、新第三紀以降続いている関東造盆地運動のため、相対的な沈降域となっている埼玉県東部沿いの中川低地沿いで層厚が厚く、平野の周縁部では層厚が薄くなっている。


 八潮市の事故がここまで大きくなった背景のもう一つは、関東平野に位置したこと。


 高度経済成長期に、経済発展・人口増とともに、地盤や環境などを無視してまちづくりが進められてきました。
 しかし、八潮市など各地での陥没事故を見て、下水道管や地盤も含めてまちづくりを検討する時期が来ていると考えられます。



■参考資料
人口減少下、汚水処理の持続可能性を確保するために目指すべき、下水道施設のコンパクト化と経営規模の広域化に関する研究

千葉県 下水道のしくみを学ぼう!!

流域下水道管のバイパス工事について(2月5日更新)

下水道マンガ「下水道ってなぁに?」 

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01月31日 19時45分

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流域下水道 - 千葉県

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