本を作るときに考えることは? 宣伝などを先走って考える前に構成を再検討してほしい件について

 以前は「自分の本を出したい」という人の相談を受けていたことがあります。

 相談が来たときに、こちらから問いかけるのは次のことです。
 「あなたが本を出したい目的は、次のAとBのうちのどちらですか?
A これまで自分(あるいは団体)が学んできたことや考えなどを、一冊の本としてまとめて、残しておきたい
B 本を通して、自分の考えなどを多くの人に知ってもらいたい

 すると、返事が来ないことが100%。
 返事そのものがないケースもあれば、「これは、今、注目されているテーマだから」「あの〇〇さん(超有名人)も、同じようなことを言っていた」「こういう売り方をしたら、かなり売れると思う」というような、AでもBでもない、なんだかよくわからない答えが返ってくるケースもありました。

 自分はフリーランスの編集者なので、AかBかを考えていない人を出版社の編集者に紹介するわけにはいきません。そんなことをしたら、「ちょっと勘弁してよ……」と敬遠され、自分の仕事がなくなるからです。

 ちなみに、Aが目的の個人については、よほどのことがない限り、自費出版を勧めます。
 「ある界隈ではかなりの重鎮」「よくも悪くも、かなり有名」「フォロワーが10万人以上」などの条件がそろった、影響力のある人物ならば、Aでも商業出版の可能性が高くなります。しかし、たいていの場合、そんな人物に対しては、出版社の編集者のほうから「本を出しませんか」と打診をしてきます。

 Aが目的の団体だったら、団体の規模、買取金額(初版を何部買い取るのかなど)によって検討することになります。数は力。

 Bが目的の場合は、当たり前の話ですが、「多くの人」、つまり読者のために本を作ります。自分の書きたいことを書きなぐったところで、お友達やお仲間以外、誰もお金を出して読もうとはしません。
 ですから、「知ってもらいたい」相手のことを考え、研究して、相手を思いやって本を作ることになるのです。

 
 本を作るときに最初に考えることは、その目的です。それを踏まえて、スタイルを選び、構成を考えます。
 「自分はがんばって勉強してきたのだから」「熱い思いを持っているから」「SNSで宣伝できるから」などは、ちょっと違うんです。


本のスタイル

 一般実用書(医学系、ビジネス系など)には、主に次の3つのスタイルがあります。

コレクション型

 学会誌などのように、さまざまな研究を集めた本です。実用書だと「〇〇大全」といったタイトルやキャッチコピーがついています。
 読者は、その学会に所属するなど、同じ興味・知識を持っている人々です。
 多くの場合、読者は興味のあるページだけ読み、最初から最後まで読み通すことは稀です。
 構成は、まず、編者が本を作成した、そして著者を選んだ目的を語ります。その後、各著者(場合によっては1人の著者)がテーマごとに自由に自身の研究や考えを述べます。学会誌の場合は、各論には論文のフォーマットが採用されています。

例 『プロフェッショナル腎臓病学』、『運動を頑張らなくても腎機能がみるみる強まる食べ方大全』
  


参考書型

 教科書や有名な既刊書(名著)に付属する形で、内容をわかりやすくしたり、深めたり、また、既刊書よりも安価にしたりした本です。その多くに、「〇〇入門」「図解〇〇」「超訳〇〇」「マンでわかる〇〇」といったタイトルやキャッチコピーがついています。
 読者は、「生理学の教科書だけではわからないから、参考書も必要だ」というように、「そのテーマについて既に知っていて、さらに学ぶ必要がある」「まだまだ理解が足りない」と自覚している人々です。
 構成は、先行する教科書や有名な既刊書に準じます。

例 『アドラー心理学入門』(先行書は『嫌われる勇気』)、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(先行書は『マネジメント』)

 

問題解決型

 既刊書では最も多いスタイルです。読者の抱えている悩みや問題に対して、具体的な解決策を提示します。
 読者は、悩みを自覚している人もいれば、「なんとなく不安で、その正体がよくわからないから書店に来てみた」という人もいます。
 多くの場合、以下の構成を取っています。
問題提起「〇〇で困っていませんか」
→問題分析「〇〇には△△という背景があります」
→手法提示「〇〇には□□という解決策があります」
→手法解説
→事例紹介
→確認「〇〇は□□で解決しましょう」

スタイルの選び方

 本のスタイルは、読者に合わせて選びます。例えば、仲間内に情報を共有するのであれば、コレクション型となります。
 また、文体・体裁も読者に合わせます。例えば、高齢者が読者であれば、読む負担を減らすために文字サイズを大きくし、情報は必要最小限にして重要な点は何度も繰り返し述べます。ただし、繰り返す際には、「同じことばかり書いている」という印象を与えないため、文章表現を変える必要があります。

読者が理解しやすい、自然な構成

 1→2→3→……、基本・基礎→応用、過去→現在、簡単→難しい、全体・概要→詳細、前提→結論の順番に並べます。

1冊当たりの情報量

 コミュニケーションはキャッチボールにたとえられます。

 キャッチボールでは、キャッチする人がミットを構えているところに、ボールを投げることが大切です。また、一度にたくさんのボールを投げても、相手はキャッチできません。どれぐらいの範囲までキャッチできるか、何球キャッチできるかは、キャッチする人の熟練度や体力、熱意に左右されます。
 コミュニケーションでも、受け手のキャパシティー内に、一つずつ、情報を送り出していく必要があります。情報量は、受け手に合わせて調整します。
 本は、コミュニケーションの手段の一つです。ですから、対象とする読者に合わせて、情報量などを検討する必要があります。
 本作りも相手があって成立するもの。受け手=読者に届くような構成を心がけたいものです。力任せに投げたり、連続で何球も投げたり、ミットのないところに投げたりするような、投げっぱなしにならぬよう……
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