なぜサプリメントで腎障害などの健康被害が起きたのか その3   カビ毒以前の問題。「紅麹」サプリメントが抱えていたリスク

国立医薬品食品衛生研究所(National Institute of Health Sciences)は2024年に創立150周年を迎える日本で最も長い歴史を持つ国立試験研究機関です。
https://www.nihs.go.jp/nihs/index.html#shimei

 そんな由緒ある国立医薬品食品衛生研究所が、10年ほど前から紅麹サプリメントのリスクについて警鐘を鳴らしていました。

紅麹製品による健康リスクは何年も前から欧米で問題視されています。

米国では、10 年程前に米国食品医薬品局(FDA)が紅麹のダイエタリーサプリメントの販売業者に対して、製品から未承認医薬品(ロバスタチン)が検出されたという理由で宣伝・販売の中止を要請する警告文書を出しています。

 ロバスタチン(Lovastatin) は、血中コレステロールを低減するスタチン系の薬剤の一種。ロバスタチンの別名が、モナコリンKです(詳細は後述)。


実際、紅麹はモナコリンとして知られるいくつかの化合物を含んでおり、その濃度は製品により大きく異なる。その一つであるモナコリン K は、スタチンの薬理学的性質を持ち、つまりコレステロール合成経路に関与する酵素(HMG-CoA レダクターゼ)を抑制する可能性を持つ。

フランスや他国で報告されたニュートリビジランス事例は、科学的文献で詳細に記述されているロバスタチンの臨床事例ととても似ている。それゆえ評価では、モナコリンを含む紅麹由来食品サプリメントの現在の使用状況では、遺伝的素因を持つ、病状がある、治療中であるなどの感受性の高い人たちにはとりわけ、消費者の健康リスクを引き起こす可能性があると結論した。

https://www.nihs.go.jp/hse/food-info/foodinfonews/2014/foodinfo201407c.pdf

 「nutrition」は栄養学。「vigilance」は、医療機器の安全性や有効性に関する情報を監視し、リスクを最小限に抑えるためのプロセス。そして、この2つの言葉を組み合わせたと思われる「ニュートリビジランス(nutrivigilance)」は、有害毒性事象の報告システムです。

 内閣府の食品安全委員会も、紅麹サプリメントのリスクを発表していました。

ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は1月15日、紅麹を伴うダイエタリーサプリメントに関する意見書(2020年1月15日付け No.003/2020)を公表した。概要は以下のとおり。

 赤かび米(Rotschimmelreis)(赤米又は紅麹とも)(訳注:以下「紅麹」)は、中国起源である。蒸した白米をMonascus属の菌株を用いて発酵させることで生産される。発酵により鮮やかな赤い色素が得られる。東アジアを中心に、紅麹は食品の着色に使われてきた。当該発酵で薬理活性成分が生成される場合があり、健康にとって有害となる可能性がある。

 健康影響に関してはモナコリン類が重要であり、紅麹中に最も多く存在するモナコリンKは、コレステロール値を下げることを意図した認可医薬品に使用されるロバスタチンと構造や作用が同じである。

 ロバスタチンの考えられる副作用は、頭痛、吐き気、下痢、衰弱、発疹及び筋痙攣である。稀に腎障害又は肝障害、場合により横紋筋融解症の原因となり得る。ロバスタチンによる治療は、常に医学上のリスク-ベネフィットを考慮して行う必要がある。

 アジアでは、コレステロール値を下げる作用がある紅麹は、消化不良及び心血管疾患の治療を意図して昔から摂取されてきた。欧州においても、紅麹を伴うダイエタリーサプリメントは入手可能であり、紅麹の含有量は製品により異なる。それらが含有するモナコリンKは、前述の種々の副作用を引き起こす可能性がある。しかし、通常、紅麹を伴うダイエタリーサプリメントの摂取に医師は介在しない。

 また、特定の条件下では、発酵中にかび毒シトリニンが生成される場合がある。シトリニンは突然変異を引き起こし、腎臓及び胎児に有害な影響をもたらす可能性がある。

 欧州連合(EU)は、コメを主成分とするダイエタリーサプリメント中のシトリニンに関する残留基準値を2,000μg/kgから100μg/kgに引き下げた。この基準値は2020年4月1日から適用される。

 今般、欧州食品安全機関(EFSA)は、ダイエタリーサプリメント中のモナコリンKの安全性に関して評価を行った。その結果、健康にとって有害とならないモナコリン摂取量を決定することはできないと結論付けた。BfRもEFSAと同意見である。

 ドイツでは、ダイエタリーサプリメントは医薬品法ではなく食品法の規制対象であることから、市場投入は認可制ではい。しかし、初めて市場投入する場合はドイツ連邦消費者保護・食品安全庁(BVL)への届け出が義務付けられている。BfRは、健康上の及び安全上の懸念が大きいことから、紅麹を含有するダイエタリーサプリメントを摂取しないよう助言する。どうしても摂取したい場合は、医師と相談後に又は医師の監修のもとで摂取すべきである。

https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05300310314

 ここまでのデータでわかるのは、「紅麹については、カビ毒のシトリニン、そしてアオカビ混入と結びつけられる「プベルル酸」以前に、有用成分のモナコリンKも以下のリスクが高いと報告されていたではないか!!」ということ。

●頭痛
●吐き気
●下痢
●衰弱
●発疹
●筋痙攣
●腎障害
●肝障害
●横紋筋融解症

 ロバスタチンとモナコリンKとの関係(発見・開発の経緯)は、次の朝日新聞の記事でコンパクトにまとめられています。

 1970年代、当時の三共(現在の第一三共)の遠藤章氏らのグループは、コレステロールを抑える薬を開発するため、数千種類の微生物を探索した。その結果、青カビの一種からコレステロール合成に関わる酵素を阻害する物質「メバスタチン」を発見する。その後、遠藤氏は大学に移り、メバスタチンと化学構造の似た物質を紅麴から分離、その一つに「モナコリンK」と名付けた。

 同じ頃、この研究に注目し、三共からデータの提供を受けて研究を進めていた米国の製薬会社メルクのチームが、「ロバスタチン」という物質を別種のコウジカビから発見する。後にモナコリンKとロバスタチンは同じ物質だと判明するが、諸事情からメルクが先に商業化に成功した。

 その後、多数の「スタチン系」の薬が開発された。今では世界で毎日4千万人が飲んでいるとも言われる、非常にポピュラーな薬である。

 というわけで、紅麴には元々、天然のモナコリンK=ロバスタチンが含まれているため、その効能の程度はともかく、コレステロール抑制効果が表れる可能性はあるのだろう。

https://www.asahi.com/articles/ASS3V2PLNS3VUPQJ001M.html

 素人考えですが、厚生労働省による「プベルル酸」発表については、アオカビが原因と世間ににおわせておけば、紅麹はセーフと印象づけられるからかもと。

 なお小林製薬の紅麹サプリメントは、「機能性表示食品」で、小林製薬がデータを消費者庁に届け出て「コレステロールを下げる」と表示していました。機能性表示食品は、安倍晋三元首相の成長戦略「アベノミクス」の一つとして2013年にできた制度で、健康食品の機能性表示が解禁されたのです。経済成長のために、安全性がおろそかになっていたのではないかなど、見直すべきタイミングが来たのかもしれませんね。



日本腎臓病協会理事長で川崎医科大学高齢者医療センターの柏原直樹病院長は「(今回の健康被害で報告がある)尿細管間質障害の診療では、サプリを含め常用している薬剤がないか調べるのが一般的だ」と話す。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC299EL0Z20C24A3000000/

※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。 

■参考資料
化学と生物文書館 コレステロール低下薬"スタチン"の発見 誰が,いつ,どこで?
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/48/4/48_4_276/_pdf/-char/ja
事業構想 健康機能性表示食品は実現するか?
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