なぜサプリメントで腎障害などの健康被害が起きたのか その1   「紅麹」成分配合のサプリメントで腎障害などの健康被害

※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。

 麹(こうじ、糀)は、穀物にコウジカビ属(Aspergillus 属)などの微生物を繁殖させたものです。ちなみに、菌糸と呼ばれる管状の細胞から構成されている糸状菌は、一般的にカビと呼ばれています。

 麹には以下の種類があります。

○黄麹菌(きこうじきん、Aspergillus oryzae、Aspergillus sojae) 主にデンプンをブドウ糖に分解→みそ、しょうゆ、清酒
○白麹菌(しろこうじきん、Aspergillus Kawachii) 黒麹菌の突然変異株 焼酎
○黒麹菌(くろこうじん、Aspergillus Iuchuensis) 主にデンプンをブドウ糖に分解、タンパク質をアミノ酸に分解、クエン酸を分泌→泡盛
○鰹節菌(かつおぶしきん、Aspergillus glaucus) 主に脂質を分解→カツオ節

○紅麹菌(べにこうじきん、Monascus属) 主に赤い色素を作る→豆腐よう、着色料(かにかま、ウインナー、ハムなど)
紅麹菌(山口県環境保健センターサイトより)



 紅麹菌を使ったサプリメントで、健康被害が出ていると報告されています。その内容が腎臓に関係するものだったので、調べることにしました。

 現時点で製品と疾患の関連は確定していないというが、分析の結果、「紅麹」原料の一部にカビから生成される成分に似た「未知の物質」が含まれている疑いが強まった。その物質がアレルギー反応を引き起こした可能性もあるとみて、複数の大学と共同で物質の特定や疾患との関連の解明を急いでいる。

 カビも含め生物が生み出す代謝産物の中で、生命活動を維持する上で必須な糖やアミノ酸、脂質、核酸などの物質は「一次代謝産物」、そして必ずしも生命活動に必須ではない物質は「二次代謝産物」と呼ばれています。
 二次代謝産物として有名なのは、1928年にアオカビ(ペニシリウム、Penicillium)から発見された抗生物質のペニシリンです。そしてスタチンは、コレステロール低下剤として広く使用されてきました。

 カビの二次代謝産物の中で、人間や家畜などに有害なものは「カビ毒(マイコトキシン)」と呼ばれています。
 アオカビのカビ毒として、シトリニン(citrinin)があります。

シトリニン
 シトリニンは、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)、ペニシリウム・ビリディカータム(Penicillium viridicatum)などのカビによってつくられるカビ毒で、腎細尿管上皮変性を起こすことが知られています。
 東京都の検査では検出例は非常に少なく、その量も極めて少ないものですが、ハト麦、そば粉、ライ麦粉から検出したことがあります。

 シトリニンで腎臓の尿細管の上皮細胞にアレルギー反応が起こり、上皮細胞がはがれ落ちてしまったようです。


 尿細管は、原尿(尿のもと)から水分や電解質を再吸収する役割を果たしています。再吸収された水分や電解質が血液に戻ることで、全身の体液のバランスが保たれています。ですから、尿細管の上皮細胞がはがれ落ちると、体液のバランスが崩れてしまい、各臓器が本来の働きができなくなります。

 尿細管に損傷が生じると、血液中の電解質(例えば、ナトリウムやカリウム)の量が変化したり、尿を濃縮する腎臓の機能に問題が生じて、尿が過度に薄くなったりします。尿の濃縮に問題が生じると、毎日の尿の量が増加したり(多尿)、体液の電解質のバランスを良好に維持することが難しくなったりします。

 シトリニンと同様のカビ毒として、オクラトキシンがあります。

オクラトキシン
 アスペルギルス・オクラセウス(Aspergillus ochraceus)あるいはペニシリウム・ビリディカータム(Penicillium viridicatum)といったカビによってつくられるオクラトキシンA及びBが知られています。
 オクラトキシンAは腎毒性及び肝毒性のカビ毒として知られていますが、マウスにオクラトキシンを食べされると、肝臓と腎臓にガンを発生させることが報告されています。
 北欧ではオクラトキシンによって汚染された飼料で飼育した豚の腎障害が多く認められています。
 人の発症例としては、バルカン諸国で流行性腎臓病がしばしば発生していますが、これもオクラトキシンAが原因とされています。
 オクラトキシンAの汚染は非常にまれですが、コーヒー豆、豆類、大麦、小麦、燕麦などから検出したという報告があります。
 東京都の検査では、ハト麦、そば粉、ライ麦及び製あん原料豆などから検出されています。

 ブルガリアやルーマニアなどのバルカン諸国で腎臓病が多発することがあったため、流行性の病気と思われていたようです。しかし実際は、カビ毒が原因だったということのようです。アオカビが生えた穀物が広く出回ったと予想できますね。

 ヨーロッパでは、紅麹菌からシトリニンができることが知られていて、健康被害も報告されていたそうです。

 そのため、紅麹菌を使ったサプリメントを販売していた小林製薬では、シトリニンについて以下の遺伝子研究をすでに行っていました。

日本で主に利用されている紅麹菌M. pilosusは、物質レベルでシトリニンを生成せず、ゲノムにもシトリニン産生遺伝子が存在しないことが確認されました。一方、中国で主に利用されている紅麹菌M. purpureusでは、シトリニンの産生およびシトリニン産生遺伝子の存在が確認されました。台湾で主に利用されているM. ruber に関しては、今回の研究で用いた菌株ではシトリニンを作る遺伝子は存在していませんでしたが、M. purpureusとM. ruberは過去にシトリニンの遺伝子が機能している菌株の報告があります(Shimizu et al., 2005 and Wang et al., 2016)。
以上のことから、紅麹菌M. pilosus NBRC 4520は、ゲノムレベルでカビ毒シトリニンを作らない報告のある紅麹菌として、高い安全性を持つ、有用な食品利用菌種であると考えられます。

 また、腎障害などの報告があったため、商品の調査を行ったところ、シトリニンは検出されなかったと報道されていました。

紅こうじ関連食品を巡っては欧州などで健康被害が相次いで報告され、有毒物質としてシトリニンの存在が知られているが、同社の調査では原料からはシトリニンは検出されなかったという。


○紅麹菌を使った食品やお酒が古い時代から存在していた
○日本で主に利用されている紅麹菌M. pilosusはシトリニンを生成しない

 主にこの2つの理由から、紅麹菌を使ったサプリメントは安全だと小林製薬も考えたのでしょう。2016年から、紅麹菌由来の商品を発売していたようです。

 食品安全委員会は、2014年3月に健康食品の危害情報をネットにアップしていました。

欧州において、以下の注意喚起が行われています。

 「血中のコレステロール値を正常に保つ」としてヨーロッパや日本などで販売されている「紅麹で発酵させた米に由来するサプリメント」の摂取が原因と疑われる健康被害がヨーロッパで報告されています。EUは、一部の紅麹菌株が生産する有毒物質であるシトリニンのサプリメント中の基準値を設定しました。フランスは摂取前に医師に相談するように注意喚起しており、スイスでは紅麹を成分とする製品は、食品としても薬品としても売買は違法とされています。

 紅麹菌を使ったサプリメントは、遅くとも2014年3月までにはヨーロッパや日本で発売されていたということです。どこの国の商品かは、食品安全委員会の情報からはわかりません。ただ、小林製薬のサイトの情報だと、日本ではなかったと推測できます。
 中国の福建省や台湾、日本の沖縄など、暖かい地域で紅麹菌を使った食品やお酒が作られてきました。
豆腐よう



 素人考えではありますが、今回の健康被害の原因は次の2つの可能性が挙げられます。豆腐ようを毎日、大量に食べるなんて考えられませんからね。
○日本で主に利用されている紅麹菌M. pilosusは、シトリニン以外のカビ毒を生成する
○サプリメントにしたためにカビ毒が濃縮されたと同時に、摂取量も食品・お酒よりはるかに多かった

 

 健康被害については小林製薬で解明が進められるのでしょうが、カビという生き物だからこそ、そんなに簡単に人間の手でコントロールはできないのだろうと考えました。「天然素材」「古来」については要注意。私たちの子どもの世代が小顔・脚長になってきているように、紅麹菌もまた変化しているはずです。

■参考資料
健康維持・補完代替医療素材としての紅麹
東京都保健医療局 食品衛生の窓
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/
小林製薬サイト

みそメーカー各社サイト
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