『はたらく細胞』と『新しい免疫入門』を超文系人間が比較してみた

 ※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、健康に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、いろいろと考察しています。素人考えですが。


 皆さーん、漫画の『はたらく細胞』シリーズは読みましたか?
 『クラナリ』編集人は、大好きです。何度も読み返しました。アニメも好きですね。影響を受けて、マクロファージは、つい「さん」付けしてしまいます。

 そんな『クラナリ』編集人は、『新しい免疫入門』を読んで驚きました。

『はたらく細胞』シリーズと、書いてあることが違う……

 周囲にショックを伝えると、「そんなの当然でしょ。マンガなんだから」と冷ややかな目で見られてしまいました。

 今回は『新しい免疫入門』を引用しながら、『はたらく細胞』シリーズでの描写との違い、あるいは『クラナリ』編集人の勘違いを検証していきます。

『はたらく細胞』(6)

※前列右から
赤血球、血小板、白血球
マクロファージ
好酸球、B細胞、記憶細胞、のどの細胞(と乳酸菌)、キラーT細胞
マスト細胞、樹状細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞
がん細胞?



 そもそも、免疫とはなんなのか。
 『新しい免疫入門』には、次のように説明されています(太字は、『クラナリ』編集人による)。

 免疫とは、細菌やウイルスなど、病原体の攻撃からわたしたちのからだを守るしくみのことである。
 食細胞はなんでも食べるが、わたしたちのからだの生きている正常な細胞には手を出さない。なぜなら、死んだ細胞の表面には“食べて”という目印が出ているが、生きている正常な細胞の表面には“食べないで”という目印が出ているからだ。
 生体防御の最前線で病原体を食べてやっつける食細胞のはたらきは「自然免疫」とよばれている。自然免疫は、下等生物から高等生物まで共通にもつ基本的な免疫のしくみで、主として食細胞が担当している。
 食細胞には、好中球やマクロファージがあります。『はたらく細胞』だと好中球は小さなナイフ、マクロファージはなたや大きなトンカチなど物騒な武器を手にしていますが、好中球もマクロファージも病原体を食べているんですね。

 食細胞が病原体を食べると、食細胞は活性化する。人間的なたとえで恐縮だが、やっつけなければならない相手とわかると、気合が入るのである。
 活性化して、つぎにどうするか。
 さまざまな警報物質を出すのである。これをひっくるめてサイトカインとよぶ。
 これらサイトカインの作用によって、病原体が侵入した現場には、まずは食細胞がぞくぞくと応援にかけつけて活性化する。この状況を「炎症」という。最初に立ちはだかる食細胞はおもにマクロファージで、まっさきに応援にかけつける食細胞はおもに好中球である。応援のマクロファージは少し遅れてかけつける。
 あれ?
 『はたらく細胞』では、病原体に対応する順番として、好中球→マクロファージなどとなっていました。
 実際は、マクロファージ(単体または少数)→好中球→マクロファージのようですね。

 食細胞が病原体を感知するために用意しているセンサーは、TLRという受容体である。TLRはToll-like receptorの略でトル受容体という。
 受容体とは、細胞が外からの情報を受けとるのに使われるもので、タンパク質でできている。(中略)受容体に結合する特定の物質をリガンドという
 TLRが病原体に特徴的な構造成分にくわえて、DNAまで認識するという発見により、自然免疫のイメージは大きく変わった。相手かまわず食べまくるだけと思われていた食細胞には、TLRというきわめて繊細な病原体センサーがそなわっていたのだ。
 くれぐれも誤解しないでいただきたいが、食細胞はTLRを使って病原体を見分けて、病原体だけを選んで食べているわけではない。相手かまわずなんでも食べて、結果として病原体を食べたらTLRで認識して、警報物質を出すのである。
 Toll-like receptorのTollとは何なのでしょうか?
 検索すると、以下の情報がヒットしました。
Tollは、ショウジョウバエの発生において背と腹の軸を決定する遺伝子として1985年に発見されました。この遺伝子を発見した研究者が思わず「toll !」(ドイツ語で「すごい」という意味)と叫んだことが、そのまま名前になったそうです。(中略)さらに1997年、Toll遺伝子に似た塩基配列を持つ遺伝子がマウスで見つかりました。その遺伝子からつくられるタンパク質がToll様受容体(以下、TLR)です。

 ということは、遺伝子を発見した人はドイツ人だったのでしょうね。この"すごい遺伝子"に似た遺伝子が作るタンパク質であるTLRを見つけたのは、フランスのホフマン博士たちなのだそうです。
 上記のサイトには、わかりやすい図が掲載されていたので、引用します。
取り残されていたToll様受容体の立体構造をついに解析より


 話を『新しい免疫入門』に戻すと、以下のように、全身の細胞が免疫に関わっているようです。これも驚きました。
 従来の免疫の見方では、わたしたちのからだを病原体の侵入から守っているのは「免疫細胞」とよばれる特定の細胞だった。ところが、細菌やウイルスを認識するセンサーが全身の細胞に分布しているという事実は、この見方を一変させる。
 TLR、RLR、NLRなどを総称してパターン認識受容体という。病原体に共通するパターンを認識することからこういわれる。

 獲得免疫のターゲットを抗原という。細菌、ウイルス、真菌などはもちろん抗原であり、細菌が出す毒素、あるいは細菌が死んで漏れだす毒素なども抗原である。わたしたちが生まれたあと、抗原の刺激を受けてはじめて獲得される免疫ということで獲得免疫という

 リンパ節の免疫の細胞のなかにはマクロファージがいて、リンパ管を流れるリンパ液の濾過装置になっている。マクロファージがリンパ節に流れこむ自己細胞の死骸や老廃物、病原体を食べてしまうのだ。この樹状細胞が流れついた病原体を食べて活性化することもある。
 樹状細胞については、『はたらく細胞』(1)だと大きな樹木として描写されていました。そのため、『クラナリ』編集人は「根っこが生えたような状態で動かないのかな」と勘違いしていました。
 実際は、体の中を動き回っていて、病原体に出会うと食べて活性化し、たくさん枝分かれをするようです。枝分かれした先には、病原体のタンパク質をぶつ切りにしたもの(ペプチド)が載っている状態です。
樹状細胞:免疫の監視細胞より


 病原体を食べて活性化した樹状細胞が、もよりのリンパ節に移動することを述べた。
 樹状細胞はこのような経過をたどり、リンパ節で抗原提示をおこなう。「こんな病原体を食べたぞ」ということを提示するわけだ。ただし、病原体をまるごと提示するのではなく、病原体のタンパク質を断片化したペプチドを提示するのは前述のとおりだ。
 樹状細胞やナイーブヘルパーT細胞など免疫細胞の多くは、基本的には体内を循環している。リンパ節を起点とするなら、「リンパ節→リンパ管→静脈→心臓→動脈→末梢→リンパ管→リンパ節」といった流れだ。
 『はたらく細胞』では、ナイーブT細胞はなよっとした、弱気な若者の姿で描写されていましたが、実際には以下の意味のようです。
○ナイーブT細胞……まだ抗原に遭遇したことのないT細胞
○エフェクターT細胞……一度抗原に遭遇して活性化しているT細胞
 以下のパターンでT細胞は活性化します。
①ナイーブT細胞が、樹状細胞などに抗原を提示される
②エフェクターT細胞が、抗原を提示している細胞に遭遇する
 
 免疫システムはきわめて動的な系であることを、再度強調しておく。
免疫の過剰反応を避けるため、活性化した樹状細胞には余命が設定されるのだ。
活性化した食細胞は、免疫細胞をよびよせたり、付近の血管から応援の免疫細胞が抜けだしやすくするサイトカインを出していた。
 自然免疫は、以下のようにまとめられていました。
 まず、最初の戦いにいどむのは食細胞だ。食細胞は怪獣(病原体)を食べて、皮の材質やRNA、DNAなどからそいつが怪獣だとわかると活性化する。活性化すると、警報物質を放出する。
 警報物質に引きよせられて仲間の食細胞が応援にかけつける。それで怪獣が退治されてしまえば、それでおしまい。怪獣がなかなか手ごわく、食細胞だけでは手に負えないとなると、仲間の樹状細胞がリンパ節に抗原提示に向かう。
 樹状細胞が、怪獣のからだの断片を表面のお皿に乗せて見せると、それぞれのお皿にピッタリ合うナイーブヘルパーT細胞が結合して活性化する。活性化ヘルパーT細胞は増殖して、一部がリンパ節に残り、多数は末梢組織に出ていく。
 末梢組織に出た活性化ヘルパーT細胞は、すでに怪獣を食べて活性化しているマクロファージと抗原特異的に出合い、マクロファージをさらに活性化して強力にする。
 共著者の審良静男博士に関係する資料が、ネット上で見つかりました。上記のまとめが図にしてあるので、引用します。
2011 年 Gairdner 国際賞における審良静男の受賞理由の解説より



 免疫細胞の活性化については、「やたら起こる」わけではなく、以下の条件が必要です。つまり、「慎重に」行われているのです。その理由は、誤作動を起こさないためです。
 文章中の「MHC」は、major(主要な) histocompatibility(組織適合性) complex(複合体)の頭文字を取った言葉で、細胞の表面にたくさんある糖タンパク質を指しています。
 MHCには、クラスIとクラスIIがあります。
 すべての有核細胞は、MHCクラスI分子を持っています。細胞内の抗原をペプチド(十数個のアミノ酸がつながったもの。タンパク質の断片)に分解し、MHCクラスI分子とともに提示します。
 樹状細胞、マクロファージ、B細胞には、MHCクラスI分子だけでなく、MHCクラスIIもあります。細菌やウイルス、寄生虫、毒素といった抗原のペプチドをMHCクラスIIとともに提示します(「皿に載せて運んで、見せる」)。
 このような特徴があることから、これらの細胞は抗原提示細胞と呼ばれています。
つぎの三つがそろったときにだけナイーブヘルパーT細胞に刺激が入り、活性化するのだった。
①T細胞抗原認識受容体が樹状細胞の「MHCクラスⅡ+抗原ペプチド」にピタッとくっつく
②補助刺激分子の結合
③サイトカイン
増殖化した活性化ヘルパーT細胞の多くは末梢組織に向かい、病原体を食べて活性化しているマクロファージと出合って、抗原特異的に、あるいは抗原非特異的にサイトカインで彼らをさらに活性化する。このときも、つぎの三つの条件が必要だった。
①T細胞抗原認識受容体が樹状細胞の「MHCクラスⅡ+抗原ペプチド」にピタッとくっつく
②補助刺激分子の結合
③サイトカイン
 すなわち、自然免疫と獲得免疫のダブルチェックが必要となっている。

 1章で、サッカーやバスケットボールの試合にたとえて、食細胞はユニフォームを見て敵(病原体)か味方かを認識しているとのべた。それに対してT細胞は、敵(病原体)と見なすべき無数の相手の「顔型」をそなえて、相手の顔を認識している。「顔型」がピタッとくっつけば敵、という原則である。そして、ユニフォームを見ても敵、顔を見ても敵である場合に限り、獲得免疫のシステムが指導する。
 このように、重要なポイントでは自然免疫と獲得免疫のダブルチェックがはたらき、まちがって自分を攻撃する致命的な誤作動はおこらないようになっている。

 獲得免疫の主役の一人は、B細胞です。『はたらく細胞』(1)で登場し、放水銃のようなものを背負ったキャラクターです。B細胞が産生する抗体(免疫グロブリン)が主体となった液性免疫です。ちなみにもう一人の主役はT細胞で、T細胞が主体となるのは細胞性免疫で、抗体という武器を使わず、直接ボコりに(?)行きます。
 (B細胞が)いかなる抗原にも対応できるように一〇〇〇億種類以上が用意され、かつ、自己成分に反応してしまうものがほとんどないのは、T細胞抗原認識受容体と同じである。

 活性化したB細胞は、増殖して数を増やし、プラズマ細胞とよばれる抗体産生細胞になる。そして一部はプラズマ細胞にならず記憶B細胞になる。
 プラズマとは、複数のサイトを見てまとめると、「非常に反応性が高くなっている状態」ということになりそうです。
 最近だとテレビCMでやたら「プラズマ乳酸菌」と出てきますが、これも「反応性が高い」と言いたいのかもしれませんね。よくわかりませんが。
 プラズマについては、丸文株式会社のサイトの説明が非常にわかりやすいので、引用します。活性酸素も、酸素がプラズマ状態ということだそうです。
プラズマとは物質の第4の状態を指しています。
物質には固体、液体、気体の三態があります。
固体にエネルギーを加えて液体に、液体にエネルギーを加えると気体に、気体にさらにエネルギーを加えて行くと、物質の第4の状態と呼ばれるプラズマ状態になります
分子・原子から電子も離れ非常に活性状態で化学的には不安定な状態になります。
 国立科学博物館のサイトでの説明では、プラズマは「電気をおびた粒子でできているガス」「電気をおびた電子や陽子などの素粒子」とのこと。プラズマはここまでにしておいて……
オーロラは、太陽から吹き出したプラズマが地球の大気にぶつかって発生する現象(写真/GAHAG)



 B細胞は「親和性成熟」によって、抗原にぴったりと合うように抗体を作り上げているようです。
 読者はお店で合カギをつくってもらった経験がおありだろうか。合カギをつくるとき、まず機械で形状をけずりだして、最後の仕上げにやすりをかけて微調整する。するとピタッとカギ穴にはまる合カギができる。この最後の仕上げに相当するのが親和性成熟ともいえよう。
 
 抗体はY字形で、『はたらく細胞』のB細胞の放水銃の銃口もY字形になっています。
 抗体のYの二股の先に、抗原がくっつくとのこと。
 「抗体」は抗原に対する用語で、物質名としては免疫グロブリン(Immunoglobulin)という。略してIgだ。
 抗体はY字形の構造をしていて、ふたまたの先端の構造が一〇〇〇億種類以上もあるので、どんな抗原が来てもそれに結合する抗体が用意されている。一方で、Y字形の先端以外の部分にそれほどの多様性はないが、いくつかの種類がある。これによって抗体は分類され、その分類を「クラス」という。

 病原体をバリバリと破壊してしまうと、内部にあった有害な物質が飛び散ってしまうリスクが高くなります。「そんな危ないことはしませんよ」というのが、次の文章です。
 抗原抗体反応ということばがあまりに有名なためか、抗体が抗原に結合しようものなら、瞬間、バリバリと音を立てて抗原が破壊されるようなイメージが根強い。最初に断言すると、体がくっついた瞬間に抗原が破壊されるようなことはない。
 抗体の主力であるIgGのおもなはたらきとして「①中和」と「②オプソニン化」の二つを紹介する。

 そして、以下のように締めくくられています。とてもわかりやすい文章なので、引用しておきます。上記の「オプソニン化」は、「食細胞の食欲をそそるように、おいしく仕上げる」というような変化のようですね。
 侵入した病原体に、まず食細胞が対応する。食細胞は病原体を認識して活性化する。食細胞だけで手に負えないようなら、仲間の樹状細胞が抗原提示のためリンパ節に向かい、抗原特異的にナイーブヘルパーT細胞を活性化する。
 並行してナイーブB細胞がB細胞抗原認識受容体にくっついた抗原を食べて、さきに誕生した活性化ヘルパーT細胞に抗原提示する。活性化ヘルパーT細胞は抗原特異的にB細胞を活性化し、活性化B細胞はプラズマ細胞になって抗体をつくり放出する。抗体による「①中和」作用がはたらき、病原体が排除されていく。
 このとき、末梢に出ていた活性化ヘルパーT細胞がなにをしていたのかを思いだしてほしい。食細胞を活性化していたはずだ。すでに活性化していた食細胞がさらに活性化され、相当強力な消化能力と殺菌能力を手にしている。ここに「②オブソニン化」が登場する。
 つまり、最高にパワーアップしている状態の食細胞の前で、抗原が抗体にくっついてオプソニン化されるのだ。ステーキがほどよく焼けたようなものであり、食細胞たちの食欲たるや猛烈なものとなる。

 自然免疫と獲得免疫は、相互に、複雑に助け合って、病原体を排除している。

 私たちは何事も単純化して考えがちですが、免疫については「複雑です!」と筆者たちは伝えたいようですね。 


 細胞に感染したウイルスや、細胞内に寄生するタイプの細菌に対して、抗体は無力だ。抗体は細胞のなかまで入りこめないからだ。
 となると、どう対処するのか。それは感染してしまった細胞を、免疫細胞が自殺へと導くようです。
 いずれの方法も、感染細胞をこっぱみじんに破壊するのでなく、アポトーシスをおこさせることが重要である。なぜなら、アポトーシスをおこした細胞は、まるごと食細胞が処理してくれるからだ。木っ端みじんになってしまったら、内容物が漏れだし、なかにはタンパク質分解酵素のような危険物もあるから、周囲にダメージをあたえてしまう。また、自己に反応するT細胞、B細胞が活性化するかもしれない。
 NK細胞については、『はたらく細胞』だと「孤独な殺し屋」的な描かれ方をしていましたが、実際は感染細胞を自殺に導く、どちらかというと催眠術師的な働きをしている印象です。
 NK細胞が感染細胞を破壊する方法は二つあり、これらはキラーT細胞と同じである。どちらも感染細胞にアポトーシスを誘導する。
 『はたらく細胞』第1巻で紹介されていた花粉症については、以下のように説明されていました。
 2021年に亡くなった藤田紘一郎博士が、過去にアレルギーの誤作動対策として、自分のおなかでサナダムシを飼っていたエピソードを思い出します。「アケミ」などとサナダムシは名づけられていて、取材に行った際にホルマリン漬けにされていたアケミちゃんたちを見せてもらいました。
 初登場のIgEはEクラスの抗体で、IgMからクラススイッチしてIgEができる。親和性成熟もおこる。プラズマ細胞から放出されたIgEは、免疫細胞の一種であるマスト細胞(肥満細胞)の表面に根もとの部分が結合する。マスト細胞は、からだじゅうの粘膜細胞などにいて、ヒスタミン、ロイコトリエンなど炎症を促進する分子や、さまざまなタンパク質分解酵素を含む顆粒を細胞内にためこんでいる。
 抗原がやってきてマスト細胞の表面のIgEに結合すると、マスト細胞が活性化し、細胞内にためこんだ顆粒のなかの物質(ヒスタミンなど)を一気に放出する。これらの物質は、平滑筋を収縮させて蠕動運動を亢進させたり、血管透過性を高めて粘液を増量したりする。なんのために? 寄生虫を排除するためと考えられている。もちろん、現代の先進国に帰省中はほとんどいない。このしくみが、鼻や目の粘膜ではたらく(誤作動する?)のが花粉症といわれている。

 『はたらく細胞』第3巻の「胸腺学校」の内容は、次のように書かれています。

 これら正と負の選別により、遺伝子再構成をへて誕生したT細胞の九〇%以上が取りのぞかれ、生き残るのは数%といわれている。
 「正と負の選別」については、以下のとおり。

「MHC+自己ペプチド」との結合 結果
①強く結合 アポトーシスをおこして死ぬ(負の選択)
②適度に結合 生き残る
③まったく結合できない アポトーシスをおこして死ぬ(負の選択)

 だから記憶細胞は、「一度、抗原を経験して、そのあと抗原が存在しない状況下でも生きのびている細胞」をその定義としている。

 まず、抗原刺激により、ナイーブB細胞、ナイーブキラーT細胞、ナイーブヘルパーT細胞が抗原特異的に活性化され、増殖する。増殖した細胞はそれぞれの役割をはたすべく一生懸命にはたらく。これまではとくに言及しなかったが、この時期の細胞を書く細胞のエフェクター細胞とよぶ。「はたらく細胞」という意味合いである。一方、増殖した細胞の一部は記憶細胞になる。
 抗原が排除されると、エフェクター細胞はやがてアポトーシスによって死んでしまう。一方、記憶細胞はそのまま生きつづけて、つぎの抗原侵入にそなえる。

 上記の記述でわかるように、「はたらく細胞」は短命なのです。ナイーブな状態で待機していて、いざ、病原体が体内に侵入して活性化されたら「はたらく細胞」になり、病原体(抗原)が排除されたら大部分が死んでしまうということです。
 ちなみに、赤血球も短命で、「体内のまたどこかで、赤血球と好中球が再会する」という甘いストーリーはなさそうです。 

 腸管免疫も、『はたらく細胞』(4)で紹介されていました。
 また、腸管で放出されるIgAであることは理にかなっている。IgAにはオプソニン化作用がないので、食細胞の食欲をむやみに増すことがない。(中略)間断なくIgAが放出されている腸管において、無用の炎症をおこさないことは重要である。

経口免疫寛容とは、口から食べて入ってくるタンパク質に対しては、免疫反応が抑えられる現象をいう。
 これは、俗説である「口から食べられるものは"安全"だから、肌に塗ってもいい」が間違いということを示していますね。
 おそらく腸管免疫は、免疫細胞や腸内細菌だけを登場人物としてそのしくみを描き切ることは不可能ではないかと筆者らは考える。腸管は免疫系としてはたらくだけでなく、ホルモン系としても、神経系としてもはたらいているからである。
 腸については、さまざまな本が出ているものの、「実は、まだまだよくわかっていない」という状況のようです。


 自然炎症は、結構耳にするワードですが、『はたらく細胞』では見かけなかった記憶が。
 じつは、TLRなどのパターン認識受容体が認識する成分は、病原体由来のものだけではなかった。わたしたちのからだの自己成分の一部も認識することがわかってきたのだ。それらの自己成分を「内在性リガンド」という。自己細胞が大量に死んだときに出てくる成分などが多い。
 そうなると、マクロファージ、好中球などの食細胞は、病原体だけでなく内在化リガンドを認識しても活性化し、炎症をおこすことになる。病原体が引きおこす炎症に対して、病原体がかかわらないこの炎症を「自然炎症」という。
 自然炎症がなんのためにおこるのか、まだはっきりとわかっていないが、組織の修復にかかわっているという考え方が有力だ。自然炎症がおこると、マクロファージや好中球が集まり、損傷部位が取りのぞかれる。さらに修復のための専門細胞が集まり、組織の再建にとりかかる。こうして組織は修復される。
 いま自然炎症に注目が集まっているのは、自然炎症がさまざまな疾患の原因になっている可能性が出てきたからだ。痛風、アルツハイマー病、動脈硬化、糖尿病 – これまでたしかな原因がわかっていなかったものが多い。

 『はたらく細胞』シリーズの『はたらく細胞BLACK』(1)で紹介されていた円形脱毛症も、自己免疫疾患の一つです。 
 さて、免疫システムが本来攻撃しないはずの自分を攻撃してしまうのが自己免疫疾患である。

  『はたらく細胞』シリーズは、実際の免疫とは違う描写があるものの、免疫細胞一人ひとり(一つひとつ)があたかも人間社会で暮らしているように描かれていて、「それは、複雑だよね」ということがわかります。

 つまり、免疫をはじめ、人間の体には、まだまだ確認されていないことのほうが多いのです。人間同士の関わりも、簡単ではありませんからね。


○上記以外で、とても役立つサイト
一般の方向け記事:免疫のしくみを学ぼう!
http://kawamoto.frontier.kyoto-u.ac.jp/public/public_001.html

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