マインド・コントロールとカルト集団

 旧統一教会など、カルト集団が利用するマインド・コントロールを調べる中で、山本一郎氏の言葉が気になっていました。
 そして、占領下における日本の反共産党対策のために、当時の韓国の情報部門「KCIA」から後援を受ける形で統一教会が「国際勝共連合(勝共連合)」を創設したのは、1968年1月(一説には1966年9月)にさかのぼります。

 KCIAについては、Wikipediaで以下のように説明されています。
大韓民国中央情報部(だいかんみんこくちゅうおうじょうほうぶ、略称KCIA)は、朴正煕時代の韓国の情報機関である。

本部の所在地名から、「南山(ナムサン)」と通称され、国民生活の隅々まで監視し、朴の独裁に反対する国民を摘発し、職務として西氷庫などで連行した被疑者に対する拷問を行い、殺害することもあったため、国民から恐れられた。その活動は国外にまで及び、日本で起きた金大中事件では、日本の東声会や山口組系暴力団と共に児玉誉士夫がKCIAに協力して金大中を拉致したことで知られる。



 『マインド・コントロールの恐怖』(著/スティーヴン・ハッサン 恒友出版)では統一教会とKCIA、アメリカ政府との繋がりについて触れられています。
 つまりは、冷戦時代に、国家の情報部門が研究・開発したテクニックを、旧統一教会は利用していた可能性が高いということです。

 今回は『マインド・コントロールの恐怖』をベースに、マインド・コントロールのテクニックをまとめてみました。




依存心を助長し
思考停止に陥らせる

 マインド・コントロールの本質は、依存心と集団への順応を助長し、自立と個性を失わせることで、洗脳(brainwashing)とは異なります。

 洗脳は、1951年にジャーナリストのエドワード・ハンターが出版したBrain-washing in Red Chinaで知られるようになりました。ハンターは、アメリカの諜報機関である戦略サービス局(OSS)の宣伝を担当していました。
 ハンターは、朝鮮戦争で捕虜になったアメリカの兵士たちが、彼らの価値観と忠誠の対象を逆転させ、彼らが犯した架空の「戦争犯罪」を信じるようになる現象を説明するために、洗脳が行われていると発表しました。

 洗脳には、通常、拷問が伴います。一方、マインド・コントロールには、露骨な肉体的虐待はほとんど伴いません。

 アメリカの精神科医であるロバート・J・リフトンは「思想改造のプログラムの8つの基準」を指摘していました。

■8つの基準

1 環境コントロール 環境とコミュニケーションをコントロールする
2 神秘的操作 「降臨した!」といった霊的な体験をするように人為的に操作する
3 言語の詰め込み 口にする言葉を管理し、制限する
4 教義の優先 実際に体験したことよりも「真理」を重要と考えさせる
5 聖なる科学 自分たちの教義は科学的であり、道徳的にも真理であるとして、他の見解を持つことは許さない
6 告白の儀式 プライバシーはなく、思想・感情・行動はすべて告白するように要求される
7 純粋性の要求 どんな人間でも達成できないような基準を掲げて、罪と恥の意識をかきたてる(自らを罰するように仕向ける)
8 存在の配分 存在する権利を持つ人と持たない人を決めるのは個人ではなく団体(グループ)である

 第二次世界大戦後の冷戦で、各国の情報機関が、洗脳やマインド・コントロールの研究・開発に積極的に携わってきました。

 また、何千という社会心理学の実験が行われた結果、①行動修正のテクニック、②集団への迎合(集団圧力が引き起こす同調行動)、③権威への服従が証明されました。
 私たちは集団に適応しようとしているとき、目には見えない情報(いわゆる「空気」)にも反応しています。
 ポーランド出身のアメリカの社会心理学者であるソロモン・アッシュの同調実験によれば、集団の中で自信にあふれた人たちが明らかに間違った答えをしている状況に置かれると、「私のほうが間違っているんだろう」などと思い込んでしまうことがわかっています。
 イェール大学のスタンレー・ミルグラムは「服従の本質は、自分を他人の願望を成就する道具と見なすようになり、従って自分の行動に自分が責任があると考えなくなってしまう、ということである」と述べています。

 こうした実験で、マインド・コントロールのさまざまなテクニックが発見されました。その一つが「hot seat(電気椅子、批判にさらされる)」で、『マインド・コントロールの恐怖』で紹介されていました。メンバーの一人が車座の真ん中に座り、他のメンバーがその人の欠点あるいは問題と思う点を挙げていくという手法です。
 こうしたマインド・コントロールのテクニックは「心理学」として知られるようになり、ビジネスなどでも利用され始めました。

自分の中の
「食い違い」を消したい欲求

 
 マインド・コントロールは、3つの構成要素で分析できます。

■3つの構成要素

1 行動
2 思想
3 感情

 人間は、行動・思想・感情の矛盾(食い違い)を許容できません。
 そのため、3つのどれか1つが変わると、食い違いを少なくしようとしてほかの2つも変わるのです。自分の行動が変わると、自己のイメージと価値観も変わります。これはアメリカの心理学者レオン・フェスティンガーが「認知的不協和理論」として提唱しました。
イソップ物語「酸っぱいブドウ」は認知的不協和理論の例

 
1 行動コントロール
 何時に起きて、何時に食事をするのか、何を食べるのか、どこに住むか、どんな衣類を着るかといった行動をコントロールすることです。

 カルト集団は、メンバーに非常に厳格なスケジュールを定めます。多くが、儀礼と教え込みの活動に使われます。
 行動は報いられるか(賞賛・昇格・褒美)、罰せられるか(批判・非難)の、どちらかです。

2 思想コントロール
 カルト集団の教え(「真理」など)と新しい言語体系(「サタン」「陰謀」「世界謀略組織」など)を身につけさせます。

 世の中のすべてを善悪、白黒に分け、複雑な状況を単純化します。そして状況にレッテルを貼り、「サタン」など集団の特殊な用語で説明します。集団の教えはあらゆる問題や疑問に「正しく」答えるものだとします。ですから、個々のメンバーは自分で考える必要はありません。むしろ、考えさせてはいけないのです。
 思考停止させて、集団の教えに疑問を持たせないようにします。

3 感情コントロール
 必要な道具は、罪悪感と恐怖感です。

 罪悪感は、集団への順応と追従を作り出すための、単純で重要な感情的テクニックです。歴史的罪悪感、人格的罪悪感、過去の行動に対する罪悪感、社会的罪悪感などが挙げられます。罪悪感をあぶり出すために、過去の罪を告白させるというテクニックも使われます。

 恐怖感は、外部の敵を想定させることと、リーダーに見つかると懲罰されるシチュエーションで作り出されます。また、忠誠心と献身は高く評価され、リーダーを批判する代わりに自分自身を批判するように仕向けられるのです。

 メンバーはある瞬間に褒められたかと思うと、次の瞬間にはののしられて心のバランスを失った状態に置かれることで(アメとムチ)、依存心と無力感が助長されます。

 ドイツの心理学者であるクルト・レヴィンは、組織変革には次の3段階があると提唱しました。

■3段階

1 解凍
2 変革
3 再凍結

 マインド・コントロールでは、人格を破壊し、新しい人格を埋め込んで、定着させる作業が行われます。

1 解凍
 相手を眠らせない、食事に制限を加える、人里離れた完全にコントロールされた環境を用意するなどの手法があります。

 もう一つは催眠です。相手の混乱を利用してトランス状態を引き起こします。「あなたはひどい欠陥人間だ」「あなたは監視されている」「親はあなたを愛していない。利用しようとしているだけ」といったショッキングな情報を、大量に与え続けて、混乱させ、思考停止に陥らせます。
 加えて「ダブルバインド」といって、コントロールする側が望んでいることを、「あなたが自ら望んだことだ」などと本人が選んだという錯覚を与えながら、強制的に行わせる催眠技術もあります。

2 変革
 解凍で、古い人格が崩壊したために生じた空白に、新しい人格を押し付けてその空白を埋めることです。反復、単調、リズムを使って、催眠を行い、教え込みはその中で行われます。

 もう一つの有効な方法は「霊的体験」です。そのために「神秘的体験」が工作されます。
 
3 再凍結
 新しい人格を固めるため、人生の新しい目的と新しい活動を与えます。
 主な方法は「型にはめること」。新しい名前をつけたり、財産を引き渡させたりすると同時に、勧誘する任務を与え、新しい人格を定着させます。
 社会心理学によれば、自己の信念を他人に売り込む努力ほど、その人の信念を固めるものはありません。

 マインド・コントロールを受けると、以前の本当の自己と現在の自己とが対立している状態になります。現在の自己の話し方はロボットのようで、感情の広がりはなく、テンションが高すぎるか、低すぎるかのいずれかとなります。

カルト集団は
倫理などどうでもよい


 カルト集団を大きく分けると、4つのタイプがあります。ただ、統一教会は右翼とも大いに関係があるし、自己啓発系のグループでマルチ商法が広まっていることも少なくありません。ですから、タイプが重なっていることがほとんどです。

■4つのタイプ

1 宗教的カルト
2 政治カルト
3 自己啓発カルト
4 商業カルト

1 宗教的カルト
 統一教会などが挙げられます。

2 政治カルト
右翼や左翼、文化、家族観、ジェンダーなどと関係しています。

3 自己啓発カルト
 高額なワークショップやセミナーを開いて「洞察」と「啓発」を提供しています。

4 商業カルト
 マルチ商法やねずみ講で、「儲かります」という内容で勧誘が行われています。

 カルト集団は、マインド・コントロールを非倫理的なやり方で使うことに抵抗はありません。「目的は手段を正当化する」と信じているため、ウソをついても、ごまかしても、なんとも思わないのです。
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