日本小児アレルギー学会が推奨「卵アレルギー予防として生後6カ月から微量摂取を」
食事制限は、子どものアトピー性皮膚炎の予防に必要か否か……
20年以上にわたって医師を取材してきた私の経験では、小児科と皮膚科では正反対の方針を取っている場合がほとんどでした。
小児科医は、アトピー性皮膚炎の原因になりやすい鶏卵やピーナッツなどは摂取しないように指導しがちです。
一方の皮膚科医は、最優先すべき治療はスキンケアという方針。そして行き過ぎた食事制限には否定的で、子どもの成長障害が起こる危険があると警告していました。
ほかにも、アトピー性皮膚炎に関しては「玄米菜食をベースとした食事療法だけで子どものアトピーが治った」「妊娠中に鶏卵などを食べないようにすれば、おなかの赤ちゃんがアトピーになりにくい」といった、出所がよくわからない情報もたくさん流れています。
まさに混乱状態です。
そんな中、2017年6月16日に日本小児アレルギー学会が「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」を発表しました。その内容は、アトピー性皮膚炎の赤ちゃんが鶏卵アレルギーの発症を防ぐため、生後6カ月から医師の管理下で鶏卵を少しずつ摂取することを推奨するというものでした。
生後6カ月からゆで卵を与えたら
アレルギーの発症を約8割予防
「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」に先立ち、日本小児アレルギー学会は2016年10月に「食物アレルギー診療ガイドライン」を改訂。アレルギーを招く食べ物の除去は必要最小限にして、原因食品を可能な限り摂取させる方針が強調されていました。
〇日本小児アレルギー学会 「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」の発表について
http://www.jspaci.jp/modules/membership/index.php?page=article&storyid=205
「食物アレルギー診療ガイドライン」には、国立成育医療研究センターのグループが行った研究が紹介されています。
アトピー性皮膚炎を発症した乳児たちに、生後6カ月から固ゆで卵を少量ずつ与えると、固ゆで卵を与えなかった乳児たちと比較して、1歳になったときの鶏卵アレルギーを約8割予防できることがわかったのです。この研究結果は医学雑誌『ランセット』でも発表されました。
一昔前ならば、アトピー性皮膚炎の子どもは血液検査を受け、「陽性」と結果が出た食べ物を完全に除去するように医師から指導されることが多かったものです。鶏卵は、陽性が出る代表的な食べ物です。
「アレルギーを引き起こす可能性がある食べ物は子どもに与えない」という考え方が変わってきたのは、「経口免疫寛容」が確認されたためだと推測できます。
経口免疫寛容とは、口から体内に入った食べ物が私たちの体にとって必要であれば、アレルギーを起こさないという現象です。例えば、血液検査では鶏卵で陽性という結果が出たとしても、実際に鶏卵を食べたところで皮膚がかゆくなるなどのアレルギー症状は出ないのです。
経口免疫寛容という現象から、次のようなことも推測できるでしょう。
ある食べ物が子どもの血液検査で陽性になったので、子どもに一切口にさせずに育てた。
そのため、幼い頃から少しずつ食べていればアレルギーを起こさなかった食べ物であるにもかかわらず、経口免疫寛容の機会が与えらなかった。
結果として、子どもが成長したときに、その食べ物をちょっと口にしただけで重いアレルギー症状を起こすようになってしまった……
「摂取時期を遅らせても発症予防につながらない」が
世界的コンセンサス
経口免疫寛容の研究は10年ほど前から世界各国で行われるようになり、現在は、食物アレルギーの原因になりやすい食べ物を摂取し始める時期を遅らせても、発症予防にはつながらないということで意見が一致しているそうです。
鶏卵を食べてすぐにじんましんや呼吸困難などのアレルギー症状が起こる子どもや、アトピー性皮膚炎を発症させて赤み・カサカサ・ジュクジュクといった「皮疹」が現れている子どもについては、鶏卵の摂取はアレルギー専門医とよく相談することが必要不可欠。
しかし、上記にまったく当てはまらない子どもに対しては、厳しい食事制限は成長や発達に悪影響を与える可能性が高いのです。子どもの将来にはマイナスに働くかもしれません。
「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」は、自己流で厳しい食事制限を行っている人にとって食生活を見直すいいチャンスになるでしょう。
〇関連書籍
『アトピー治療最前線』 NHK取材班 (編集) 岩波書店
20年以上にわたって医師を取材してきた私の経験では、小児科と皮膚科では正反対の方針を取っている場合がほとんどでした。
小児科医は、アトピー性皮膚炎の原因になりやすい鶏卵やピーナッツなどは摂取しないように指導しがちです。
一方の皮膚科医は、最優先すべき治療はスキンケアという方針。そして行き過ぎた食事制限には否定的で、子どもの成長障害が起こる危険があると警告していました。
ほかにも、アトピー性皮膚炎に関しては「玄米菜食をベースとした食事療法だけで子どものアトピーが治った」「妊娠中に鶏卵などを食べないようにすれば、おなかの赤ちゃんがアトピーになりにくい」といった、出所がよくわからない情報もたくさん流れています。
まさに混乱状態です。
そんな中、2017年6月16日に日本小児アレルギー学会が「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」を発表しました。その内容は、アトピー性皮膚炎の赤ちゃんが鶏卵アレルギーの発症を防ぐため、生後6カ月から医師の管理下で鶏卵を少しずつ摂取することを推奨するというものでした。
生後6カ月からゆで卵を与えたら
アレルギーの発症を約8割予防
「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」に先立ち、日本小児アレルギー学会は2016年10月に「食物アレルギー診療ガイドライン」を改訂。アレルギーを招く食べ物の除去は必要最小限にして、原因食品を可能な限り摂取させる方針が強調されていました。
〇日本小児アレルギー学会 「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」の発表について
http://www.jspaci.jp/modules/membership/index.php?page=article&storyid=205
「食物アレルギー診療ガイドライン」には、国立成育医療研究センターのグループが行った研究が紹介されています。
アトピー性皮膚炎を発症した乳児たちに、生後6カ月から固ゆで卵を少量ずつ与えると、固ゆで卵を与えなかった乳児たちと比較して、1歳になったときの鶏卵アレルギーを約8割予防できることがわかったのです。この研究結果は医学雑誌『ランセット』でも発表されました。
一昔前ならば、アトピー性皮膚炎の子どもは血液検査を受け、「陽性」と結果が出た食べ物を完全に除去するように医師から指導されることが多かったものです。鶏卵は、陽性が出る代表的な食べ物です。
「アレルギーを引き起こす可能性がある食べ物は子どもに与えない」という考え方が変わってきたのは、「経口免疫寛容」が確認されたためだと推測できます。
経口免疫寛容とは、口から体内に入った食べ物が私たちの体にとって必要であれば、アレルギーを起こさないという現象です。例えば、血液検査では鶏卵で陽性という結果が出たとしても、実際に鶏卵を食べたところで皮膚がかゆくなるなどのアレルギー症状は出ないのです。
経口免疫寛容という現象から、次のようなことも推測できるでしょう。
ある食べ物が子どもの血液検査で陽性になったので、子どもに一切口にさせずに育てた。
そのため、幼い頃から少しずつ食べていればアレルギーを起こさなかった食べ物であるにもかかわらず、経口免疫寛容の機会が与えらなかった。
結果として、子どもが成長したときに、その食べ物をちょっと口にしただけで重いアレルギー症状を起こすようになってしまった……
「摂取時期を遅らせても発症予防につながらない」が
世界的コンセンサス
経口免疫寛容の研究は10年ほど前から世界各国で行われるようになり、現在は、食物アレルギーの原因になりやすい食べ物を摂取し始める時期を遅らせても、発症予防にはつながらないということで意見が一致しているそうです。
鶏卵を食べてすぐにじんましんや呼吸困難などのアレルギー症状が起こる子どもや、アトピー性皮膚炎を発症させて赤み・カサカサ・ジュクジュクといった「皮疹」が現れている子どもについては、鶏卵の摂取はアレルギー専門医とよく相談することが必要不可欠。
しかし、上記にまったく当てはまらない子どもに対しては、厳しい食事制限は成長や発達に悪影響を与える可能性が高いのです。子どもの将来にはマイナスに働くかもしれません。
「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」は、自己流で厳しい食事制限を行っている人にとって食生活を見直すいいチャンスになるでしょう。
〇関連書籍
『アトピー治療最前線』 NHK取材班 (編集) 岩波書店
Leave a Comment