EUで銃犯罪が突出している福祉大国スウェーデンの移民・難民について調べてみた

 アメリカのドナルド・トランプ大統領がなんだか暴れている印象ですが、そのトランプ大統領が公約に掲げていたのが移民の強制送還です。「不法移民がアメリカ人の仕事を奪う」「不法移民は殺人やレイプを犯し、治安が悪くなる」などと考えられているようです。

 しかし、アメリカでは移民と犯罪に因果関係がないことは多くの研究で指摘されています。

 その一方で、北欧のスウェーデンでは、移民や移民2世が中心になって構成されたギャングが銃撃事件を引き起こしていると報道されています。「治安がよい福祉国家」というイメージが強いスウェーデンですが、欧州連合(EU)内で人口1人当たりの射殺件数が最も多い国となっています。
 スウェーデンと、移民を受け入れている他の国との違いはどこにあるのかを調べてみました。

スウェーデン王国(図/外務省


  高度な福祉国家として知られるスウェーデンの正式名称は、スウェーデン王国です。

 グスタフ2世アドルフが1611年に即位してから、大北方戦争の1709年のポルタヴァの戦いでロシア帝国に敗れるまでの100年間は、フィンランドや北ドイツ、バルト海東岸地域にまで領土を拡張したことから「バルト帝国」と呼ばれていました。
領土を最大に拡張した頃のバルト帝国(図/Zakuragi


 スウェーデンの絶対王政は1682年に確立し、1718年のカール12世の死後に廃止となります。この間に、軍事国家として強大化しました。同時に、貴族や聖職者、市民、農民などと利害関係を調整し、それぞれの社会階層のバランスの上にスウェーデンという国が成り立っていました。

 大北方戦争の後もスウェーデンはロシアと戦い、ナポレオン戦争(1796~1815年)ではフィンランドを失って、小国となってしまいました。
 ナポレオン戦争以降は戦争を避け、第一次・第二次世界大戦でも中立の立場を取りました。1995年にはEUに加盟しましたが、EU単一通貨ユーロは導入せず、NATO(北大西洋条約機構)への参加はロシアによるウクライナ侵攻後の2024年でした。

 ヨーロッパの列強に囲まれている中、戦争に巻き込まれずに中立を保つためには、武装する必要があります。そのために、スウェーデンでは重税が課せられました。そして第二次世界大戦の後は、この重税を社会福祉の推進に向けたのです。
 経済成長と社会福祉の充実を両立させるために「スウェーデンモデル」と呼ばれるさまざまな制度が作られています。
 例えば児童手当(barnbidrag)制度は、親の所得水準に関わらず15歳以下の児童1人に対し定額を支給するもので、1948年に導入されました。
 また、労働組合組織率は約80%と非常に高く、労使それぞれのトップの組織間で賃金交渉が行われ、話し合いを重視するスタンスが維持されてきました。

スウェーデンモデルの特徴

積極的労働市場政策
高い労働者の組織率
団交による決定
普遍的福祉
全員が就労
インフレおよび失業率の抑制
労使協調路線
同一労働・同一賃金



 こうしたことから福祉国家というイメージが強いスウェーデンですが、欧州連合(EU)内で人口1人当たりの射殺件数が最も多い国となっています。

オランダ、フランス、ベルギーなど他の欧州諸国もギャングとの闘いに頭を悩ませているが、スウェーデンは銃犯罪が突出しており、これまでのところ欧州連合(EU)内で1人当たりの銃犯罪件数が最多だ。
人口わずか1000万人のスウェーデンで、昨年は363件の銃乱射事件が発生し、55人が射殺された。これに対し、他の北欧3カ国(ノルウェー、フィンランド、デンマーク)は銃乱射事件がわずか計6件だった。

 スウェーデンにおける2022年の犯罪統計によると、警察等への通報件数は 約148万件(1,477,470 件(刑法犯1,170,761件、特別法犯276,709件)、人口 10 万人当たり 13,803件)となっています。計上方法の違いから日本との単純比較は困難ですが、例えば、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の統計によれば、故意の殺人の人口 10 万人当たりの被害者数は、2021年の数値で日本が 0.23 人、スウェーデンが 1.08 人にのぼります。
 2021年の犯罪統計と比較すると、警察等への通報件数は33,087件減少していますが、主にギャング間の抗争による発砲事件(2022年:391件、2023年:363件)や爆発物関係の事件(2022年:191件、2023年:351件)は依然として高い水準で推移しています。
 こうしたことから、一般に「治安が良い」と認識されているスウェーデンですが、犯罪に対しては油断することなく、十分に警戒することが必要です。

 銃犯罪増加の背景の一つとして、古くからの格差社会という点が挙げられそうです。「福祉国家なのに格差社会?」と不思議な気もしますが、実際にスウェーデンに移住したり、働いてみたりした人々の発言からそんな背景が見えてきました。

 まず、スウェーデンが格差社会であることについて、名古屋工業大学の若山滋名誉教授は次のように記述していました。

 外国人労働者が多く、スウェーデン人は高級な仕事に就き、そうでない仕事は外国人にと、人種分業が定着していた。多くのレストランでは南ヨーロッパからやってきたイタリア系の人間がコックやマネージャーとなり、日本人の若者はその指図のもとで働いていたのだ。まさにヨーロッパ文化が築いてきた社会構造の底辺である。

 正式にはスウェーデン王国という。17世紀にはフィンランドも、現在のエストニア、ラトビアなど大陸の一部も領有し、バルト帝国として君臨した。

 第一次、第二次世界大戦では中立を貫いた。スウェーデン鋼と呼ばれる良質の鋼材を産出し、ボルボ、サーブといった自動車、航空機産業に加えて軍需産業が強かったので、ヨーロッパのほとんどが戦乱に巻き込まれているあいだに大いに富を蓄積した。国民一人当たりの所得はきわめて高く、社会福祉も行き届き、王室の権威も保たれていた。まさに「北欧の雄」であり、イギリス、フランス、ドイツのように世界政治の現実に揉まれる地とは離れた「ヨーロッパ貴族文化の極北」といった感があった

 スウェーデンはその後、オイルショックの影響を強く受け、サーブは倒産し、日本と同じような時期にバブルがはじけて株価が暴落するなど、経済的に苦しんでいるが、国民の生活の質は現在も高い。つまり実力の割に、ヨーロッパの貴族文化としてのプライドが残っているといっていい。

 しかも現在のヨーロッパは、大量の難民にさらされ、人権より自国を優先させている。大量の観光客に対しても、経済的には歓迎するが、気持ちの上では排他的な力が働くのだ。

 世界の富裕層に関するクレディ・スイスの調査では、スウェーデンの最富裕層1%が自国に占める富の割合は、アメリカの最富裕層よりも大きいと報告されています。

 YouTubeでも、「スウェーデンに移住して貧富の差には驚きました」というコメントがありました。

スウェーデンに移住して貧富の差には驚きました。来る前は移民や難民に対してすごくウェルカムなイメージがあったのですが、実際は富裕層が多く、もしくは親世代からの遺産で家もあるしそこまで働く必要のない人たちが多く、その不足した働き手に移民をあてがって高額な税金で搾取しているような感覚を覚えました。言葉は悪いですが…。

 ここまでをまとめると、もともと貴族・聖職者・市民・農民といった階層のある社会で、階層の間で話し合いを持つことで調整がうまくいっていたのが、スウェーデンの特徴のようです。人口の少なさを、女性の社会参画や仕事の効率化でカバーしてきました。
 ただし、あくまでも古くからスウェーデンにいる人たちの間での話でした。
 「外国人労働者が多く、スウェーデン人は高級な仕事に就き、そうでない仕事は外国人にと、人種分業が定着していた」わけで、「よそ者」は階層社会の最下層に入れられていました。

 2015年に中東や北アフリカなどからの大量の難民がヨーロッパに流入した「欧州難民危機」で、スウェーデンは多くの難民を受け入れました。「人種分業が定着していた」のであれば、移民・難民はスウェーデンの人々との関わりは薄く、信頼関係が築きにくかったのかもしれません。また、移民・難民は「よそ者」なので、低賃金で、あごで使われるような仕事にしか就けなかったのだと考えられます。

 日本では闇バイトが問題になりましたが、活用されていたのはテレグラムです。スウェーデンでも、秘匿性の高いアプリなどで見知らぬ人同士が知り合い、連絡を取り合って、それが犯罪につながっているのではないでしょうか。安く、簡単に、見知らぬ人と通信できるような技術の発達が、犯罪を招いているという可能性もあるわけです。

民族的に多様な地域の人ほど、地方政府やニュースメディアへの信頼も揺らぎ、世の中を変えられるという「政治的有効性感覚」が弱まっており、選挙にも行かない。その一方で、政治への関心や知識自体は高まり、抗議デモや社会変革団体には参加する。

民族的に多様な地域の住民ほど、近所の人を信頼せず、寄付やボランティアで助け合わないばかりか、地域に貢献しないで集団生活から距離を置く一方で、頼るべき友人も少ないからだ。

こうした多様性と低い信頼の関係は、経済的不平等に起因するところも大きいとされる。教育や経済的満足度が高い人ほど、信頼感が高まるからだ。 

 言葉は良くないが、誰が受益者となり、誰が被害者となるのか。こういった陰鬱で繊細な問題に目を背けることなく、しっかりと考えていく必要が出てくる。もし率先して変化を推進するのであれば、私たちにはこうした可能性を受け入れる覚悟が必要なのだ。政治家がよく口にするWin-Win(ウィン・ウィン)となることはあまりない。 

『移民の経済学』(著/友原 章典、 中央公論新社)

 スウェーデンと、移民を受け入れている他の国との違いについては、「古くからの格差社会」という可能性が考えられました。スウェーデンで起こっていることが、日本などほかの国でも同様に起こるわけではないということです。

 また、移民かどうかよりも、教育や経済的満足度のほうが、治安など地域社会に及ぼす影響が強いという可能性もあります。

学歴や年収が同じような日本人と外国人を比べたら、犯罪率に差がないということも十分にありえる。
『移民の経済学』(著/友原 章典、 中央公論新社)

 移民問題となると、私たちは感情的・短絡的になりがちではないでしょうか。受け入れる側の文化や社会構造も含めじっくりと検討することが、少子高齢化の日本を生きる私たちに求められているのかもしれません。



■主な参考資料
不法移民と犯罪 関連性はあるのか?

不法移民1100万人を抱えるアメリカ トランプ氏が掲げた公約「大量強制送還」の現実味

「スウェーデン」のヤバすぎる実態…貧しい若者が急増し「凶悪犯罪」が多発していた

焦点:揺らぐスウェーデンの平等社会、富裕層減税で格差拡大へ
「経済的な貴族社会が復興しているようなものだ」と、スウェーデン労働組合連合のチーフエコノミスト、オラ・ペターソン氏は言う。
スウェーデンでは一部の国で見られるような社会的混乱はないものの、多くのスウェーデン人は、2013年に首都ストックホルムで発生した暴動や、犯罪組織による暴力事件の急増は、欧州でポピュリストの躍進をもたらしているような社会的分断の表れだと感じている。

第 2 章第 3 節 スウェーデン王国 (Kingdom of Sweden)
https://www.mhlw.go.jp/content/001105055.pdf
欧州債務危機後、経済の回復とともに失業率は改善していたが、2020 年に新型コロナウイルス感染症の影響により雇用・失業情勢が悪化(失業率は 2019 年の 6.8%から 2020 年に8.3%に上昇)。2021 年以降の経済成長の局面においても改善は見られず、2021 年の失業者数(学生・雇用訓練中の者を含む)は 48.9 万人、失業率は 8.8%となっている。また、若年失業率(15 歳~24 歳)は 24.8%であり、他の欧州諸国と同様その対策が課題となっている。
また、欧州難民危機を受けて大量に流入した新着難民等の労働市場への統合が大きな課題となっており、2021 年におけるスウェーデン生まれの者の失業率が 5.4%である一方で、外国生まれの者の失業率は 19.5%となっている。

スウェーデンにおける失業と社会保障制度の変化
https://www.jstage.jst.go.jp/article/spls/8/2/8_8/_pdf
 スウェーデンでは,1990年代以降に経済政策を転換したため,スウェーデンモデルが変化したと指摘されている。その結果,失業の状況をみると,1990年代以降,若者の有期雇用の増加による多数の短期的な失業と,それ以外の障害者,移民,低学歴者,中高年に集中している長期的な失業に二極化していた。同時期に社会保障制度では貧困リスクや受給者増の変化を受け止めつつ,それぞれの給付で受給者を労働市場に押し出す方向の変更がなされた。結果として,公的扶助制度が最後の砦として失業者の生活を支えている。

スウェーデン・モデルに関する一考察
https://tcue.repo.nii.ac.jp/record/168/files/KJ00009567679.pdf

書評『「スウェーデン・モデル」は有効か持続可能な社会へむけて』
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19982006.pdf

多数の難民を受け入れたスウェーデンが思い知った「寛容さの限界」
https://president.jp/articles/-/52370?page=2#goog_rewarded
クルド系経済学者のティノ・サナンダジは著書で、「長期服役者の53%、失業者の58%が外国生まれで、国家の福祉予算の65%を受給しているのも外国生まれの人々」だと指摘している。さらに「スウェーデンの子供の貧困の77%は外国にルーツを持つ世帯に起因し、公共の場での銃撃事件の容疑者の90%は移民系」だという。
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