マインド・コントロールとは何か  『マインド・コントロールの恐怖』

 マインド・コントロールとは、個人の人格(信念、行動、思考、感情)を破壊して、新しい人格と置き換えるシステム。あるいは、人格を分裂させるシステムです。
 人格の変化は劇的・唐突で、人工的に作り出され、自分で決断を下す能力が欠けてしまいます。
 また、自分を大切にする気持ち、そして「自分が自分である」という感覚を、マインド・コントロールは破壊します。そのため、マインド・コントロールを受けた人間は、名前を変え、学校や仕事を辞め、銀行口座や財産を寄付してしまうのです。


 文 鮮明が教祖だった統一教会では、マインド・コントロールが行われていました。『マインド・コントロールの恐怖』(恒友出版)は、統一教会系のカルト集団の一員だったものの、抜け出したスティーヴン・ハッサンの著書です。アメリカでは1988年に、日本では1993年に発行されています。
スティーヴン・ハッサン(photo/Misia Landau




著者スティーヴンの体験


 統一教会では「勧誘のためにはウソをついてもいい」と信じられているようです。活動資金集めに「慈善のための寄付」「キリスト教のプログラムの後援」「孤児を助ける」など、そのときのはずみでなんでも言っていました。
 「目的は手段を正当化する」と信じているため、ウソをついても、ごまかしても、なんとも思わないのです。

 著者のスティーヴンについては、大学の食堂で本を読んでいたときに、4名の男女が近づいてきて、同じテーブルに座り、会話を交わしたところからスタートしています。4名の男女は感じがよく、「私たちのグループの集まりに来てみませんか」と誘ったとのこと。
 スティーヴンも新しい友人を作りたかったから、集まりに参加しました。活気ある会話。精力的な雰囲気。幸せそう。こんないい人たちと会えて幸運だった……そんな感想を抱いたそうです。

 翌日、4名の男女のうちの1人が誘った会合で、スティーヴンは違和感を覚えました。そして「もう二度と来ようとは思わない」と話し、会場の外に出たところ、会合に来ていた10名以上の人間が追ってきました。真冬の寒さの中で、スティーヴンを取り囲み「明日の夜も来てくれると約束するまで、放さない」と言ったのだとか。
 それで、仕方がなくスティーヴンは「行く」と約束してしまい、「明日の夜」の会合に行参加したら、スティーヴンがどんなに善人か、どんなに頭のいい人か、などを、何度も何度も聞かされました。このやり方は「愛の爆撃」、日本だと「賛美のシャワー」と呼ばれているそうです。

 そんなこんなでズルズルと、統一教会の研修会に参加させられて、マインド・コントロールが施され、スティーヴンは信者へとなりました。その後、スティーヴンたちは、「北朝鮮帰国者の日本人妻の人権に関するアメリカ委員会」というグループを設立し、韓国の人権侵害から北朝鮮へと国連代表の関心をずらすように動きました。

 当時、統一教会の問題については、すでに知られていて、報道もされていましたが、スティーヴンたちは「迫害」「共産主義者がアメリカを支配しているからだ」などと思ったのだそうです。「サタンと戦っている」という高揚感もあったようです。本当の「お父様」は文 鮮明と思い込んでいました。
 そして統一教会内では、「脱洗脳」のウソの恐ろしい話(拷問される、など)を聞かされ、外の世界への恐怖感を植え付けられたそうです。

 スティーヴンは、交通事故に遭ったことがきっかけで、両親の働きかけで統一教会から離れることができました。

勧誘で利用された4つの人格モデル


 スティーヴンは、新会員を勧誘する方法として、4つの人格モデルを使うように教わりました。
1 思索型
2 感情型
3 行動型
4 信仰型

1 思索型

 思索型の人に対しては、知的アプローチが使われました。ノーベル賞受賞者が統一教会の後援する科学の会議に参加している写真を見せたりしたそうです。ただし、科学者たちは統一教会のメンバーではなく、いわゆる謝礼目当てで参加していたようです。

2 感情型

 感情型には、愛と思いやりで迫りました。無意識に「仲間に受け入れられたい」と感情型の人間は願っているので、勧誘の際には無条件に認めてあげたり、温かな印象を与えたりしました。

3 行動型

 挑戦を好み、人生でたくさんのことを成し遂げたい行動型の人間。このタイプには、世界の貧困や苦しみを止めるために、統一教会が何をしているのかを、ウソでもたくさん話しました。

4 信仰型

 信仰型は、神を求めたり、人生の霊的意味を尋ねたりします。このタイプを勧誘するには、夢や幻、啓示などの霊的体験を語りました。

カルトが接触する3パターン 

 好む・好まないは関係なく、マインド・コントロールにはかかります。私たちは、みんな弱く、欲求に負けやすいからです。
 誰でも、幸せでありたいと願っています。そして、「私なりに何かをしたい」と人生に意味を、よりよいものを求めています。愛情、知恵、知識、お金、地位、人間関係、健康……こうした基本的な欲求を利用して、カルトは勧誘を行うのです
 カルトが接近するパターンとして、3つがあります。

3つのパターン

1 友人や身内による
2 異性など魅力的な人が親しげに近づく
3 講演会やシンポジウム、映画といったイベントが行われる

 引っ越しや就職・転職、人間関係の破綻、経済不安、愛する人の死など、人生の中でストレスを感じる、傷つきやすい時期を狙って、勧誘が行われることが多々あります。

 文 鮮明の信者は「ムーニー」と呼ばれ、街頭で花やキャンディなどを売り、大学で勧誘活動をしました。彼らは、髪をきちんとカットして、礼儀正しく、しつこく活動をしていました。

「マインド・コントロールとは何か」を定義する8つの基準 Eight Criteria for Thought Reform

1 環境コントロールMilieu Control

〇家族や友人などから隔離する
〇セミナーや講義、イベントで拘束する
〇周りから孤立させる

2 密かな操作または仕組まれた自発性 Mystical Manipulation (Planned Spontaneity)

〇周りで計画され、管理されている出来事を、まるで自発的に起こったように見せる
〇操作していることを悟らせない
〇断食、念仏、睡眠の制限などが伝統的に行われてきた
〇高い目的のためならば、誰かをだましてもよいとウソを正当化する

3 純粋性の要求Demand for Purity 

〇周りの環境や自分の中で、純粋と不純、善と悪とを徹底的に分けるように要求する

4 告白の儀式The Cult of Confession 

〇集会で罪を告白させる

5 聖なる科学The "Sacred Science" 

〇世界を単純化する

6 特殊用語の詰め込みLoading the Language 

〇決まり文句と単純なスローガンを繰り返す

7 教義の優先Doctrine Over Person 

〇自分の経験や感覚よりも、教義を優先する

8 存在権の配分 Dispensing of Existence

〇生きる権利を持つ者と持たない者の間に、明確な線を引く
〇排他的に主張する

身を守る鍵

 勧誘の戦術は、曖昧な一般論、はぐらかしの言葉、話題の転換です。そして「分割して征服せよ」が原則で、友人や家族から引き離そうとします。

 その反対を行うことが身を守る鍵。つまり、友人や家族との関係を保ち、勧誘してきた人物には具体的な質問を行い、自分の連絡先を教えないことです。質問は常に率直に、友好的な態度で行い、具体的な答えを要求します。

(質問例)

〇あなた自身はこれに入ってどれくらいになりますか。なにかの組織に勧誘しようとしていますか。
〇このグループと関係があるほかの組織の名前を、全部教えてくれませんか。
〇最高指導者は誰ですか。どんな経歴と資格の持ち主ですか。犯罪歴はありますか。
〇あなたのグループは何を信じているんですか。ウソは許されますか。
〇あなたのグループは、誰かから問題があると見られていますか。もし人々があなたのグループに批判的だとしたら、どんな点においてでしょうか。
〇グループと指導者について、あなたが一番好きではない3つのことは何ですか。
〇このグループのメンバーであること以外に、もっとやりたいことがあるとしたら何ですか。


カルトの中での体験


 カルトの中にいると、次のような体験をします。
1 教義こそ現実
2 現実世界は白か黒か、善か悪かの二者択一
3 エリート心理
4 外部志向が強い(自分ではない権威ある人を全面的に信じる)
5 情緒不安定

 カルトのリーダーは、自分の影響力に中毒になっている人間たちで、必ずしも金銭のために活動しているわけではありません。

家族や友人がマインド・コントロールを受けたときの、効果のない対応


 心配をして怒るのは、逆効果です。

効果のない対応

1 過度の自責と恥を感じている
2 自分自身の必要(休息、リラックスなど)をおろそかにしている 
3 感情的に反応する
4 議論する

政治と結びついた新興宗教

 文 鮮明は、単なる新興宗教の教祖ではなく、政治とも大いに関わっていました。
 統一教会の立場は、文 鮮明が新しいメシアであり、「地上天国」の建設が彼の使命ということ。共産主義はサタンで、そのサタンとの戦いに信者が巻き込まれているという教義です。文 鮮明は「政教分離はサタンが一番好むものです」と語り、宗教と政治を融合させたがっていました。

 1978年の「フレーザー・レポート」(米国下院外交委員会の国際小委員会が発表)では、統一教会が韓国中央情報部(KCIA)と結びついていたと発表されています。
 また、文 鮮明は、児玉誉士夫と組織的なつながりを持っていました(おそらく「国際勝共連合(勝共連合)」)。

 文 鮮明は朝鮮人参茶の輸出からM-16ライフル銃の製造まで、幅広い分野で企業を創設し、日刊新聞『ワシントン・タイムズ』と結びついていました。コリアゲート問題などがありましたが、ロナルド・レーガンが大統領になると、文 鮮明の政治的影響力が増大しました。

心理学でのマインド・コントロール

 ここまでは『マインド・コントロールの恐怖』に沿ってまとめてきましたが、日本の心理学者や弁護士もマインド・コントロールに関する著書を出しています。学会では、マインド・コントロールではなく「心理操作(Psychological Manipulation」)という言葉を使うことが多いとのこと。
 日本心理学学会の心理学ミュージアムでは、マインド・コントロールが簡潔に説明されています。




 歴史を振り返ると、戦争、そして冷戦での国家間のパワーゲームの中で、マインド・コントロールの手法が確立されていったといえます。「共産主義と対抗するためならば、自国民が統一教会に多少取り込まれても、目をつぶる」という政治的な判断もあったのでしょうか。

「目的は手段を正当化する」
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