雑高書低が終わりを告げた、その後に

パウエルズ・ブックスサイトより

 市川市内の古書店が閉店するという話題が、X(旧Twitter)で流れてきました。

 個人経営と思しき新刊書店が、たいてい駅前に存在した時代もありました。いつ頃からか、小さな新刊書店が消滅し、古書店も少しずつ見なくなっていきました。売る側も、作る側も、本を生業とするのが難しいのが、今です。

出版業界の売り上げはピークとなった1996年までは上り坂一辺倒で来た。だが消費税が3%から5%に増税した1997年に初の前年割れとなり、以降、下降の一途をたどることとなった。特に雑誌市場は、少子高齢化に加え、インターネット(1990年代半ば~)、スマートフォン(2010年代~)の普及などから、需要が激減。休刊誌も相次ぎ、加速度的に下降していった。2016年には書籍と雑誌の売り上げが逆転、雑高書低が終わりを告げた。書籍市場は雑誌に比べればまだ健闘していると言えるが、読者は高齢者にシフトしつつあり、老若男女に幅広く売れる瞬発的なメガヒットも出づらくなっている。学習参考書や児童書など教育系分野の需要は比較的底堅く推移している。

 「瞬発的なメガヒットも出づらくなっている」
 下の記事で紹介した、幻冬舎社長の見城徹さんの見解と重なります。


 また、「学習参考書や児童書など教育系分野の需要は比較的底堅く推移している」とありますが、学習参考書はウェブ(電子も含む)にシフトすると考えています。現在、私が知っている範囲でのすべての高校が、全生徒にタブレットを購入させています。ちなみに公立中学では、タブレットが貸与されていました。
 知りたいことがあれば、タブレットを使ってウェブで調べるように、学校で教えています。そのため、「学習参考書を買う」という経験を、中高生を持たなくなってきているのです。
 医療関連については、ウェブの情報はかなり充実しています。体系立てて学ぶのならばやはり参考書がよいのでしょうが、「わからないところを、ささっと調べたい」場合は格段にウェブのほうが便利です。
 そして、驚いたことに、人材派遣や転職斡旋を手掛ける人材サービス会社のサイトの情報が、かなり充実していたのです。大学教授に取材を行い、臓器などをしっかりと作図して、記事を作成していました。当たり前の話ではありますが、紙の本にしてルート営業などで流通させる必要がないので、出版社ではなくても情報サイトは作れるわけですよね。

 紙の出版物が減少していることは、さまざまなデータにも表れています。

全国出版協会・出版科学研究所は、1月25日発売の「季刊 出版指標」2024年冬号で、23年(1〜12月)の出版市場規模を発表した。紙と電子を合わせた推定販売金額は1兆5963億円(前年比2.1%減)で、2年連続のマイナス。紙の出版物(書籍・雑誌)は1兆0612億円(同6.0%減)、電子出版物は5351億円(同6.7%増)だった。

紙の出版物の内訳は、書籍が6194億円(同4.7%減)、雑誌が4418億円(同7.9%減)。雑誌の内訳は、月刊誌(ムック、コミックス含む)が3728億円(同7.2%減)、週刊誌が690億円(同11.3%減)。月刊誌の内訳は、定期誌が約5%減、ムックが約7%減、コミックスが約10%減だった。

 2023年の返品率は書籍33.4%、週刊誌47.3%。その一方で、書籍の新刊点数は高止まりの状態です。
総務庁統計局 書籍新刊点数と平均価格

 広告については、圧倒的にインターネットの割合が大きくなっています。下の円グラフで、雑誌の広告費は赤の部分で約16%。最も大きい紺はインターネットで約43%を占めています。
総務庁統計局 媒体別広告費

 株式会社ガーオンの「2023年10-12月期 雑誌印刷部数を分析してみる」では、『週刊少年ジャンプ』の部数が急落していると報告されています。また、部数を維持している雑誌は、男性アイドルグループの特集が組まれているとのこと。
 「ルーティンで同じ雑誌を買う」人がかなり少ないことがわかります。ですから、「雑誌で安定した収益が見込める」のは、出版社にとっても書店にとっても、すっかり過去の話になったわけです。
 
 制度や雑誌依存は別として、アメリカでも今の日本と同様、インターネットの普及で書店の存続が危ぶまれる状態だったとのこと。しかし、独立系を中心にリアル書店が復活しています。ニューヨーク・タイムズに、ここ数年の間に全米で300以上の独立系書店が開店し、さらに今後数年の間に約200店が開店を予定していると報じられていたそうです。

 ちなみに アメリカの書店では、出版社からの直接購入が一般的な仕入れ方法とのこと。
 また、雑誌販売ルートはスーパーマーケットが45%で最も多いようです。書店については11%で、書店は書籍メインということがわかります。

 日本の場合は、雑誌が売れていた頃は再販制と流通機構のおかげで、売れ筋の新刊書だけを扱う書店の経営が、そして雑誌をメインとした出版業が、生業として成立する時期があったのでしょう。
 書店も出版社も実は多過ぎただけで、今は調整期にあるといえるのかもしれません。「瞬発的なメガヒット」も同様、「当たり前」ではなく「異常」だった可能性もあり、それを前提に経営するのはギャンブルではないでしょうか。

 もちろん、慣れ親しんだ町の書店が消えるのは、悲しいことではありますが。

 なお、冒頭に写真を掲載したパウエルズ・ブックスは、創業が50年以上も前にもかかわらず、さまざまな遊びの要素も持っている世界最大級の書店のようです。

※追記
 JR市川駅前の新刊書店が5月31日に閉店すると、貼り紙が出ていました。

 

■参考資料
書店がフレグランスを発売 「香りコンテンツ」はマーケティングに活用できるのか?

安部かすみ アメリカで起きている「リアル書店」の復活

1.4.1 アメリカの出版・書店事情を考察する

Powered by Blogger.