「原子とか、元素とか、どこがどう違うのかさっぱりわからない」問題を、 文系人間が考えてみた

 ※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。



「原子とか、元素とか、もう、全部一緒でいいじゃないか……」

 そう思ったことはありませんか?
 「元素周期表」には、水素やヘリウムなどの原子が並んでいますよね。


「一家に1枚 元素周期表」(文部科学省)

 原子=元素と思いませんか?
 ……などと、勝手にキレかけていたときにヒットしたのが、東邦大学のサイト「原子と元素 (atoms and chemical elements)」

 すべての物質は、非常に小さい粒子が集まってできている。物質を構成する基本的な粒子を原子という。原子は正の電荷を持つ原子核と、負の電荷を持つ電子でできている。さらに、原子核は正の電荷を持つ陽子と、電荷を持たない中性子でできている。原子核のもつ陽子の数を原子番号という。また、陽子と中性子の数の合計を質量数という。

 物質中には異なった数の陽子を持つ原子が存在しているが、同じ数の陽子を持つ(つまり同じ原子番号の)原子は、同じ元素であるという。

 原子は、正の電荷を持つ原子核(nucleus)と負の電荷を持つ電子(electron)からできています。
 そして原子核は、正電荷を担う陽子(proton)と、電荷を持たない中性子(neutron)からできています。
 陽子の正電荷と対応する数の電子が、原子には存在します。

 例えば炭素だと、陽子の数は6(原子番号6番)なので電子の数も6つ。ただ、中性子については5 ~8つと違う場合があるのです。

 中性子の数が違う原子については、「炭素」という元素名に質量数(陽子と中性子の合計数)をくっつけて、「炭素11」、「炭素12」、「炭素 13」、「炭素14」などと呼ばれています。 ちなみに、原子全体の質量は、陽子と中性子の数で決まります(電子の質量は陽子や中性子の約1840分の1と、非常に軽いので)。

 となると、元素は「炭素」、原子は炭素11」、「炭素12」、「炭素 13」、「炭素14」ということになります。質量数が違っても陽子の数が同じなら同じ元素。

 わかったような、わからないような……

 ということで、時代をさかのぼって、それぞれの語源などを調べることにしました。

 「万物の根源は水である」

古代ギリシアの哲学者であるタレス(タレース、紀元前624年~紀元前546年)の言葉から、元素の話は始まるのではないでしょうか。
 ちなみに、万物の根源を示す古代ギリシア語は「アルケー(ἀρχή)」。beginning、originという意味だそうです。

 となると、アルケーは、元素の英訳であるelementとはニュアンスが異なります。「世界が何でできているか」だとelement、「世界は何から始まったのか(何から変化して今の世界が出来上がっているのか」だとbeginning、originというところでしょうか。

脱線すると切りがないので、話をアルケーに戻しましょう。

タレスの縁者・弟子のアナクシマンドロス(紀元前610~ 紀元前546年)は万物の根源を「無限なるもの」(ト・アペイロン)、アナクシマンドロスの弟子であるアナクシメネス(紀元前585~紀元前525年)は空気(アエール)、またヘラクレイトス(紀元前540~紀元前480年)は火(ピュール)と考えたそうです。ちなみに「万物は流転している」という概念を生み出したのは、ヘラクレイトス。また、クセノパネスは、万物の根源が土だと主張したとされています。

整理すると、次のとおり。

古代ギリシアの哲学者:主張した万物の根源(アルケー)
タレス:水
ヘラクレイトス:火
クセノパネス:土
アナクシメネス:空気

こうした考えをもとに、エンペドクレス(紀元前490~紀元前430年)は四元素論を唱えました。火・空気(風)・水・土の4つの元素で、この世界の物質は構成されていると考えたのです。出ましたね、元素。

アリストテレス(紀元前384年~紀元前322年)は、 アリストテレスが唱えた四原質説(四元素説)では、物質は火、空気、水、土の4つで構成されていて、土は「冷・乾」、水は「冷・湿」、空気は「熱・湿」、火は「熱・乾」の性質を持ち、また、土と水は「重さ」、空気と火は「軽さ」を持つとしました。

このようなアリストテレスまでの流れと対立する形で、原子論を提唱したのが、レウキッポスとデモクリトス(デーモクリトス、紀元前460~紀元前370年)。

 原子論は、「自然はそれ以上分割できない最小単位としての原子(atom)から成り立つとする理論」とのこと。atomは、「分割できないもの」という意味なのだそうです。アルケーとは違いますね。

原子は真空の中を絶えず動き回るとする原子論は、アリストテレスに批判されます。連続体であるアルケー元素説と、非連続のアトム原子論が相いれなかったという印象。

その後、長い間、ヨーロッパではアリストテレスの考えが主流でしたが、ルネサンス期(14~16世紀)に原子論が見直され、普及したとのこと。

フランスの化学者で「近代化学の父」と呼ばれているアントワーヌ・ラヴォアジエ(1743~1794年)は、1777年に燃焼とは空気の一成分と物質の結合であることを発見し、空気が酸素と窒素で構成されていることを明らかにしたほか、1785年に水の分解実験に成功。1789年に発表した『化学原論(Traité élémentaire de chimie、英訳するとElements of Chemistry)』では、物質の究極的な構成要素を元素(élément)と名付け、水素、酸素、窒素など33種類の元素のリストを掲載したとのこと。

つまり、水や空気は「根源」ではなかったということです。 

フランス語のélémentも、古代ギリシア語の(アルケー)も「元素」と訳したことから、自分のような文系人間には混乱が生じたのかもしれません。

Powered by Blogger.