生きているから死ぬという、当たり前の話 『超圧縮 地球生物全史』

 「今」がすべてではなく、絶え間なく時間は過ぎゆき、生き物は誕生したからには滅亡する運命にある。
 地球という星についてもそうだ。誕生したからには滅亡する。

 こうやって書いてしまうとあまりにも陳腐なのですが、この事実をとてつもない説得力を持って突きつけてくるのが『超圧縮 地球生物全史』(著/ヘンリー・ジー ダイヤモンド社 )。なんでも世界的ベストセラーなのだそうで、一読するとそれも納得します。
 とにかく、文章のテンポがよく、かなり上手。読みだしたら、止められません。

 宇宙が急激に膨張し、水素やヘリウム、炭素、酸素などの物質が作られ、小さな塊がぶつかって地球ができたのがおよそ46億年前のこと。
 「コンロで煮えたぎる鍋」のような状態を経てから、生命が海で生まれたのが38億年前。
 「大酸化イベント」や「スノーボール・アース(全球凍結)」といった「終末論的な災害」で、生き物の多くが死んで、新しい種に置き換わって、生命という存在は続いてきました。
Adapted from Press and Siever, 2000 - Understanding Earth


 38億年の間に、消えていった無数の生き物たち。私たち人間も、そんな生き物のうちの一つに過ぎません。

 今後数千年のあいだに、ホモ・サピエンスは消滅するだろう。その原因の一つは、長いあいだ未払いになっていた「絶滅の負債」を返済しないといけないから。



 人間には感情があるため、自分の命がつい永遠に続くように錯覚するし、自分や他人の死を恐れるし、地震・噴火その他で家などが失われると悲しむわけで、この感情というのがなかなかに面倒くさいものです。ただ、先輩に当たる生き物たちはこうした現象を淡々と受け止めていたのだろうと、38億年の歴史に思いをはせるわけです。


地球を救え!
このようなスローガンを目にすると、
それなら、プレートテクトニクスを止めてみろよ!
といい返したくなるし、
いますぐ、プレートテクニクスを止めてみせろよ!
とまで、反論したくなる。
 結局のところ、地球は、ホモ・サピエンスが出現する46億年前から存在しており、ホモ・サピエンスがいなくなった後もずっと存在しつづける、大きすぎる存在なのだ。
 
 プレートテクトニクスでは、デジタル大辞泉と世界大百科事典で、次のように説明されています。

地震・火山活動・造山運動などの地球表面の大きな変動は、各プレートが固有の方向に動くために、プレートの境界で起こるという学説。
固体地球の表面が十数個のかたい板(プレートplate)によってすきまなく覆われていて,それらの板どうしの相対運動に基づいて板と板との境界に沿って種々の地学現象が引き起こされるとする考え。
気象庁 HP より

 


 ホモ・サピエンスは約30万年前にアフリカで誕生し、地球上を移動しながらほかのホモ属のDNAを取り入れて繁栄した後に、ほかの生き物と同様に消えていくことになるのでしょう。

 今年の元日には能登半島地震が起こりました。
 私たちはなすすべもなく、生命のありようを眺めているだけなのですが、最後に著者の言葉を借りたいと思います。
 絶望してはいけない。地球は存在し、生命はまだ生きている。

 ちなみに、現在の一部の教科書では、最古の人類として紹介されているのがアウストラロピテクスではなく、サヘラントロプス・チャデンシスとのこと。
【目次】
1章 炎と氷の歌
太陽が生まれた瞬間
生まれたころの地球
コンロで煮えたぎる鍋のように
生命の誕生
三〇億年の支配者
宇宙でもっとも危険な物質
終末論的な災害
驚異のバクテリア
スペシャリストと分業制
もっと奇妙なこと
地球上の生命は……

2章 生物、大集合
超大陸の分裂
海綿のたゆまぬはたらき
肛門の発達がもたらしたもの
逆境の時代の回復力
奇妙な美しさを持つ生き物
食べられない方法を探す
「内側がない」動物
三葉虫はすごい
風変わりな生き物たちの動物園
頭足類の化石の歴史
カンブリア紀の生命の開花
化石記録に名を記した最初の魚

3章 背骨のはじまり
小さな生き物ののぞみ
「鎧」で防御する
逃げろ!
オズの魔法使い
体のほとんどが尻尾
脊椎動物の進化
人間はとても大きい動物
悪夢のような生物
「鎧をまとったヤツメウナギ」のように
全く新しい動物
最強の捕食者
最古の脊椎動物の微笑み!?
議論の余地

4章 渚に打ち上げられて
魚でごったがえした海
最初の樹木
緑に覆われる大地
葉っぱの下の小さなドラマ
ちょっと変わった魚類
保守的なシーラカンス
捕食者たち
四肢動物の足跡
絶滅の危機
足のある奇妙な総鰭類
パンゲア大陸の暗くて蒸し暑い森
彼らは、いつの日か……

5章 羊膜類あらわる
陸地の奪還
西部戦線のように
ヒカゲノカズラと石炭
両生類の繁栄
新世界に移住するための「宇宙服」
水の支配からの脱却
負債を返すとき
草食動物の奮闘
ディメトロドンの背中の帆
地球上を闊歩した樽型の生物
競争が激化した世界
追い詰められる陸上生物
絶滅、絶滅、絶滅
三葉虫の旅立ち
ほとんど生き残らず
生命は戻ってくる

6章 トライアシック・パーク
数千万年の復興
勝ち残ったものたち
は虫類のカーニバル
脚を失うトカゲ
五メートルの怪物
ワニのような「ハイウォーク」
空への進出
最古の恐竜たち
超大陸の分裂・生命の宝くじ

7章 空飛ぶ恐竜
五トンの怪物
恐竜の呼吸はすごい
史上最大の陸上動物
恐竜が成功したもう一つの鍵
恐竜、空へ飛びたつ
離陸する二つの方法
オルドビス紀のそよ風
小型ほ乳類のパラシュート飛行
始祖鳥の翼
命の灯火
飛べない鳥たち
無数の鳥たちのさえずり
菜食主義のワニ
花を咲かせる植物の登場
たった一撃で……
大絶滅、姿をあらわすほ乳類

8章 素晴らしきほ乳類たち
むかしむかし……
鼓膜の誕生
人間は耳が悪い
逃げ出した魚の顎関節
小さく、毛深く
カモノハシやハリモグラの祖先
代謝の速い活動的な動物
体重に匹敵する昆虫を食べよ!
ほ乳類は夜に遊ぶ
脂肪とタンパク質が豊富な「乳」
恐竜がニッチを埋める
ほ乳類の進化と拡張
有袋類の長く輝かしい歴史
とっちらかった世界
バスくらいの大きさがあるヘビ
クジラは海へ……!
急速に変わりゆく世界

9章 猿の惑星
南極の長い冬の夜
奇妙な新しい贈り物
類人猿の鳴き声
直立歩行のはじまり
腰痛が大きな悩みの種
動物界のエリート戦闘機
未解決の問題
樹上も、地上も
新鮮な肉と優れた石器

10章 世界を股にかける
終わりを告げる鐘
時には近く、時には遠く
地軸の傾き
ポラリスはやがて……
一〇万年ごとの寒波
深層海流の循環システム
ホモ・エレクトゥス
火を使う
「つがいの絆」と不倫
死後の世界はない
もっとも美しい道具の製作者
私たちが本当に世界を見ることができたなら
各地に進出するホモ・エレクトゥス
サイを狩る
数奇な運命
脳を維持するためのコスト
地球には巨人がいた
ネアンデルタール人の繁栄
アフリカからやってきた種

11章 先史時代の終わり
生命の繁栄
脂肪を蓄える目的
生殖と寿命のあいだ
長老たちの知恵
悲痛な叫び
ホモ・サピエンスの進出
ある場所では死に絶え……
熱帯気候化したヨーロッパ
道具の開発、高度な技術
壊滅的な噴火
移動する人類
ネアンデルタール人との交配
ネアンデルタール人の絶滅
洞窟壁画と儀式

12章 未来の歴史
絶滅の形
ホモ・サピエンスの絶滅の可能性
たった一発の銃弾
到来する氷河時代
独り占めする人類
「絶滅の負債」を返済するとき
大氷河時代
次々と死に絶える
地球の歴史と二酸化炭素
ゆっくりと着実に
分業と効率的な生産
もっと大きく、もっと速く、もっと遠くへ
生命の進化と多細胞生物
大地に広がる菌類
花の進化と昆虫の進化
「コロニー」は超生物
植物の未来
生命は深海や地中に集中する
約八億年後の未来

エピローグ
ホモ・サピエンスが特別な理由
「第六の絶滅」か?
私たちの惑星
人類の課題
地球の「外」へ
生命は……

年表1 宇宙のなかの地球
年表2 地球上の生命
年表3 複雑な生命
年表4 ほ乳類の時代
年表5 人類があらわれる
年表6 ホモ・サピエンス
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