夢か、狂気か「ネオ・トウキョウ・プラン」その1 実現していたら市川市の一部は「江戸川・船橋区」になっていた?
○鹿野山(かのうざん、君津市にある山)と鋸山(のこぎりやま、富津市にある山)を崩して、房総半島を平地にする
○鋸山を崩す際には、核爆発を利用する
○東京湾の3分の2に当たる2億坪を埋め立てる
○埋め立て地を新首都「ヤマト」とする
こうした「ネオ・トウキョウ・プラン」を盛り込んだ『東京湾2億坪埋立についての勧告』は、1959(昭和34)年7月29日に産業計画会議委員総会で発表されました。産業計画会議が資料の編者になっていますが、中心となって取りまとめたのは加納久朗(かのうひさあきら、1886-1963)氏です。
加納氏は、日本住宅公団(現・UR都市機構)初代総裁や千葉県知事を務めました。
『東京湾2億坪埋立についての勧告』は、一般財団法人電力中央研究所のサイトにPDFがありました。
ネオ・トウキョウ・プランを特徴づける計画図は、上記のPDFの中にあります。ただ、手っ取り早く見たいのならば、読売新聞の記事がお勧めです。
○幻の「ネオ・トウキョウ」とは? 埋め立てで新都市構想 戦後の人口増対策予算面で頓挫
『クラナリ』にも掲載したかったのですが、権利の関係で控えました。フォントだけマネをして作成しました。
電力中央研究所は、科学技術研究を通じて電気事業と社会に貢献する電気事業共同の研究機関として、1951年に創設され、以来70年以上に亘り、わが国の経済社会の発展を支える電気事業に、研究開発の面から寄与してまいりました。
そんな電力中央研究所のサイトに、どうして『東京湾2億坪埋立についての勧告』のデータがあるのでしょうか?
これについては、 「電力の鬼」と呼ばれた松永安左エ門(まつながやすざえもん、1875~1971)氏が関係していると予想しています。産業計画会議は松永氏が主宰した私設シンクタンクなのです。
松永氏については別の記事で紹介するとして、今回は『東京湾2億坪埋立についての勧告』に掲載されている「東京湾埋立についての加納構想」の驚きの内容を挙げていきます。
○松永氏についての記事
夢か、狂気か「ネオ・トウキョウ・プラン」その3 「電力の鬼」の存在感
冒頭で述べた4項目が、「東京湾埋立についての加納構想」で書かれています。「加納構想」なので、当然、筆者は加納氏なのでしょうが、今を生きる私の感覚だと「狂気をはらんでいる……」という文章。作成されたのが「あの昭和30年代」ということも関係しているのかもしれません。『クラナリ』でも何度か紹介したように、今の感覚では受け入れられないような突飛かつ衝動的、ときどき狂気とも思われる事業が行われてきた時代です。
「東京湾埋立についての加納構想」では、当然、「自然保護」という観点が欠落しています。
核を利用して山を吹き飛ばし、東京湾を埋めるのですから、生態系もクソもありません(下品な表現でスミマセン)。
湾内に作る小島には「緑地帯」を設置するようですが、そのプランもなかなか……
スギの林,あるいはマツの林,あるいはクヌギの林,あるいはケヤキの林,あるいはクスというふうに,一種類ずつ異なった森林を作るのがよいと思います。
水はけの悪い埋め立て地で、こんな林をどうやって維持をしていこうと思っているのかと疑問を抱いたのですが、あくまで「加納構想」なので。
とにかく、「支配したい」という欲求の強さを感じる文章なのです。また、職業蔑視も含まれていました。
この間私は浦安町に行ってみた。(中略)その非衛生的で狭苦しい,臭い小さな住居は実に気の毒なものである。近代教育を受けて将来のある子供たちがいつまでもああいう職業に満足するわけはない。
自然環境も、住民の仕事も、なんでもかんでもコントロールしたかったのでしょうね。
『東京湾2億坪埋立についての勧告』の中で「狂気をはらんでいる……」という文章は「東京湾埋立についての加納構想」ぐらいで、その他は綿密に計算されたプランが盛り込まれています。まあ、ときどき「わけのわからぬもののゴミタメ式集団」といった表現が出てきて、驚くわけですが(第3次産業についての表現)。また、土地買収などは、金さえ払えばトラブルは解決するというニュアンスでまとめられています。
ネオ・トウキョウ・プランにおいて、山を破壊し、海を埋めて出来上がる新都市は、その役割に応じて「ユニット」が組まれます。現在の市川市の沿岸部は「江戸川・船橋区」に含まれることになりそうです。浦安や市川といった地名は、新都市では消えるわけです。
そんなネオ・トウキョウ・プランについての新聞記事が、『東京湾2億坪埋立についての勧告』に「反響」として載せられています。
日本経済新聞 中外春秋「根本的な国土計画案の具体化を」
東京の埋立によって新しい工場,住宅用地を造成する案は,この正月あたりから加納久朗氏によって提唱されているので,だれも驚かないが,松永安左エ門翁の産業計画会議でもこれを取上げて,さらに具体的な案を発表した。
朝日新聞 天声人語「産業計画会議の構想に対して」 昭和34年8月3日
"埋立て病"がこうじすぎるのではありませんか
天声人語で書かれた批判については、産業計画会議専任委員の堀 義路氏と事務局長の前田 清氏が反論していました。
最後にわれわれの主張は,単なる思いつきや腰だめの議論ではなく,この計画の作成は,500日の日時と100人以上にのぼる各界のエキスパートの方々の御検討,御協力をえて,得られた結晶なのである。
この一文から、ネオ・トウキョウ・プランにはかなりのコストがかかっていると推測できるわけです。
産業計画会議は私設のシンクタンク。松永氏の財力はいかほどかと、つい思ってしまいました。
ネオ・トウキョウ・プランは、1970年代のオイルショックによる経済の混乱などで立ち消えていったわけですが、東京湾アクアラインはその名残なのだそうです。
■参考資料
幻の「ネオ・トウキョウ」とは? 埋め立てで新都市構想 戦後の人口増対策予算面で頓挫
Wikipedia
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