世間的に好かれるブックデザイン・イラスト 今昔

 イラストレーターと画家。
 ライターと作家。

 違いは、横文字かそうでないかではありません。主な目的が、異なるのです。前者は商業的成功、後者は自己表現がメインとなります。

 商業目的の場合、どうしても避けられないのが流行り廃り。「今、世間的に好かれているかどうか」が重要なのです。「20年後に評価される」というのはまったく求められていないし、「これがセオリーとして正しい」「これがかっこいい」としても売れなければ意味がないわけです。

 流行というのは、とらえどころがありません。そのため、いつも現場に赴いて、売れ筋に触れておく必要があります。

 そのデザインだと、本は世間に広く行き渡るか。
 多くの人が手に取るのか。

 要は「何部売れるのか」を重視して、装丁も本文デザインも判断するわけです。

 装丁に使われるイラストについては、面白いことに、「同じイラストレーターの作品が大量に使われる」というムーブメントが何度かありました。
 『クラナリ』編集人が記憶している範囲だと、まずは朝倉めぐみさん。書店に行くと、「右も左も朝倉さん」という時期がありました。


 2001年頃に、ちょっと規模は小さかったのですが、河村ふうこさん。


 そして、なんといっても長崎訓子さん。10年ほど前になるでしょうか、こちらについても「右も左も長崎さん」状態がありました。
 デザインの場合は、「宝くじ売り場」とちょっと似ています。
 「あの売り場で1等が出た」と話題になると、行列ができますよね。それと同様、本がヒットすると、そのデザインを担当したデザイナーに、編集者がこぞって依頼するわけです。

 鈴木成一さんは、次のように語っていました。
本が売れると装丁も話題になり、ある種の流行になります。『金持ち父さん 貧乏父さん』は累計300万部以上売れ、同じような装丁の依頼を何冊も受けました(笑)。とはいえ僕としては、毎回、いち読者としてゲラを読み、まっさらな状態から出発しているだけです。

 本文デザインで、今と昔での大きな変化は、文字サイズ。『クラナリ』編集人が最近担当した本(一般実用書・エッセイ)のうち、2冊は16Q。これは昔は小見出しのサイズでした。
 また、行がびっしりと詰まっているのではなく、改行と1行アキをかなり多めに入れています。

 本文サイズが大きくなって、何が起こったのかというと、見出し・小見出しとの差(いわゆる「ジャンプ率」)の減少。一つには、本文サイズに合わせて見出しまで大きくすると、うるさい印象になることが関係している気も。そのため、昔のセオリーが本文サイズが大きくなった今だと当てはまらないばかりか、「うーん、時代遅れ?」という印象を与える可能性があるわけです。

 一方、文字が大きければ、その分読みやすくなるかというと、そうではありません。行間や書体の影響が大きくなって、「文字は大きいけど、疲れる」というケースにも遭遇してきました。

 書店で平積み・面陳の本=今売れている本をパラパラと眺めると、一般実用書については本文デザインはかなりシンプルで、罫線などは極力使わないのがトレンド、つまり、世間的に好かれているようです。

 そう考えると、本文デザインで気を使うところ・力を入れるところが、かなり変わってきていますね。
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