なぜサプリメントで腎障害などの健康被害が起きたのか その4 Fanconi症候群(ファンコーニ症候群、ファンコニー症候群)とイタイイタイ病

 紅麹サプリ摂取の健康被害者、ほぼ全員に「ファンコニー症候群」 成分が腎臓集積で障害か

「紅麹」死亡5人のうち3人に前立腺がんなどの既往歴 健康被害の95人のほとんどに「ファンコニー症候群」の疑い

 最近の報道で、よく見かける「ファンコニー症候群」。データ元は、日本腎臓学会が発表した「『紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究』アンケート調査(中間報告)」です。

 主な検査データ異常としてはFanconi症候群を疑う所見が目立っており下記特徴的所見が認められました(中央値[四分位])。

・低カリウム血症(3.3 [2.9-3.7] mEq/L; 約65%が3.5 mEq/L未満)
・低リン血症(2.0 [1.7-3.3] mg/dL; 約60%が2.5 mg/dL未満)
・低尿酸血症(1.8 [1.4-3.2] mg/dL; 約60%が2.0 mg/dL未満)
・代謝性アシドーシス(HCO3- 16.0 [13.0-18.2] mmol/L; 約65%が18.0 mmol/L未満)
・尿糖陽性(約87%が3+以上)


 Fanconi症候群(ファンコーニ症候群、ファンコニー症候群)は、腎臓の近位尿細管で再吸収されるはずの物質が、尿として排泄されてしまう状態です。カリウムやリン、尿酸、重炭酸イオン(HCO3-)、ブドウ糖などが再吸収されていないために、血液中で不足しています。

 ファンコーニ症候群で、特に知られているのがイタイイタイ病です。イタイイタイ病は、腰や肩、ひざなどの痛みで患者さんが「イタイ、イタイ」と苦しむことから、その名がつきました。富山県の神通川流域で起きた、日本の四大公害病の一つです。
 痛みが強調されていたのですが、重金属が飲み水や農作物などで体内に入って腎臓の尿細管に障害が起こっていました。その結果、骨軟化症で全身のさまざまな場所の骨にひびや骨折が生じて、痛みが現れていたのです。
 イタイイタイ病の本態はカドミウムの慢性中毒により、まず腎臓を障害し、次いで骨軟化症をきたし、これに妊娠、授乳、内分泌の変調、老化および栄養としてのカルシウム等の不足などが誘因となって特異な疾患を形成したものである。
 神通川本流水系を汚染したカドミウムを含む重金属類は、過去において長年月にわたり同水系の用水を介して、本症発生地域の水田土壌を汚染し、かつおそらく地下水を介して井戸水を汚染していたものとみられる。
 

 そのほか、「『紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究』アンケート調査(中間報告)」には腎機能の低下を示す検査値も掲載されていました。
・eGFR低下(17.8 [14.2-31.0] mL/min/1.73m2)
・血清クレアチニン上昇(2.3 [1.5-3.5] mg/dL)
・尿蛋白増加(2.3 [1.5-2.9] g/gCr)
・尿β2MG(21618 [3826-35763] ng/mL)
・尿NAG(23.6 [14.5-33.1] IU/L)

 本来、腎臓の糸球体は血液中の必要なものとゴミとをふるい分ける役割を果たしています。しかし、eGFR(推算糸球体濾過量)が低下し、ふるい分けができていない状態です。血液中のゴミ(クレアチニン)が増えて、必要なタンパク質が尿に出て行っています。

 尿β2MGと尿NAGについては、岡山大学のサイト説明があります。
尿中β2 マイクログロブリン, Urinary β2 -microglobulin
β2 マイクログロブリンは、99個のアミノ酸からなる分子量11,800ダルトンの低分子蛋白である。1本鎖のポリペプチドからなり糖鎖を含まない。 HLA class IのL鎖としてH鎖と共有結合し、赤血球を除く全身の有核細胞表面に広く分布し、これらの細胞表面から分泌されると腎糸球体基底膜を通過し、約95%以上が近位尿細管から再吸収・異化を受ける. 尿中にはごくわずかの量しか排泄されない。我が国では、尿細管障害の補助診断、フォローなどに広く利用されている。 しかし尿中動態は、腎前性の増加によっても影響をうけ、また糸球体の異常でも増加するため鑑別を要す。 酸性尿中で不安定や特異性の問題から欧米では血清のマーカーとしてのみ使用され尿の測定はα1マイクログロブリンを測定するのが一般的である。

尿中β-D-Nアセチルグルコサミニダーゼ, NAG (N-acetyl-β-D-glucosaminidase) 
NAGは分子量が11.2~12.6万と推定されるリソゾーム中に含まれる加水分解酵素のひとつで、非還元性の2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコース残基に作用するグルコシダーゼの一種である。 前立腺と腎では特に近位尿細管に多く含まれており、NAGの分子量が比較的大きいため、血清中のNAGは通常尿中にはほとんど排泄されない。 NAGは腎尿細管や糸球体障害で尿中に出現し、とくに尿細管障害の程度の軽い時期、すなわち試験紙法で尿蛋白が陰性の時期から尿中に逸脱するといわれているため、腎病変の早期発見に有用である。 また腎移植後の経過観察や上部尿路感染の指標としても用いられる。尿中NAG活性は朝高く、日中から夜間にかけて低くなる傾向がある。 このため冷暗所に24時間蓄尿するか早朝尿で測定することが望ましい。
pH8以上のアルカリ尿、およびpH4以下の酸性尿では失活し、見かけ上低値になる。また室温保存でも1~2日で活性が半減するので、冷蔵または冷凍保存が必要である。

 以上のことから、「紅麹コレステヘルプに関連した腎障害」は、健康食品による一種の"公害"というイメージも否めません。
 「特定保健用食品」「機能性表示食品」「栄養機能食品」の総称である「保健機能食品」の管轄は、厚生労働省から、2009(平成21)年に創設された消費者庁に移行したそうです。
 機能性表示食品は、安倍晋三元首相の成長戦略「アベノミクス」の一つとして2013年にできた制度で、健康食品の機能性表示が解禁されました。2015(平成27)年4月「食品表示法」が施行され、この法律に基づいて「機能性表示食品制度」が整えられています。

 「『紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究』アンケート調査(中間報告)」には以下の記載があります。
患者さんは30歳代から70歳代まで認められますが、40歳~69歳が約9割を占めます。
現時点ではやや女性に多い傾向があります(66%)。

 患者さんが40代以上、さらに女性が多いというのは、紅麹コレステヘルプに限らず、日本においては多くのデータで当てるのかもしれません。
 人口ピラミッドを見ればわかるように、40歳未満よりも40歳以上がはるかに多く、男性よりも女性のほうが若干多いというのが、日本の人口の特徴だからです。
総務省統計局サイトより

 今から12年前(2012年)に発表された健康食品に関するアンケート調査のデータでは、以下のように報告されています。
ほぼ毎日利用している者とたまに利用している者を加えると、約6割の消費者が健康食品を現在利用している(消費者の約4分の1がほぼ毎日利用)。また、消費者の4分の1は、健康食品を利用したことがない。 

 また、2020年の調査については、以下のように報告されています。
サプリメントを現在利用している人は38.8%です。女性や高年代層で高く、女性60・70代では5割弱となっています。

【サプリメントの利用に関する調査】現在利用している人は4割弱、女性や高年代層で高い傾向。利用者のうち、効果を実感している人は5割弱、「どちらともいえない」が約35%

 2つの調査から、次の傾向が読み取れます。
●男性よりも女性のほうが、健康食品を利用している人が多い
●高齢になるほど、健康食品を利用する人が増える

 高齢化が進む日本では、社会全体としての消費が鈍ると考えられています。そのために、機能性表示食品などで高齢者の消費を促そうとしたのかもしれません。
 しかし、紅麹については、すでにリスクが欧米で報告されていました。


 そのため、機能性の表示を許可するかどうかは慎重である必要があった気がします。

 現在、着色料として紅麹を使っている食品も、消費者からの問い合わせが寄せられたり、敬遠されたり、菓子やみそなどが自主回収されたりしているところです。


※環境基本法(平成5年11月19日法律91)による公害の定義
環境の保全上の支障のうち、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭によって、人の健康又は生活環境に係る被害が生ずることをいう。

※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。 

■参考資料
イタイイタイ病の現状と今後

慢性鉛中毒の実験的研究-Fanconi症候群との関係 につ い て

多発骨折,著明な低カリウム血症で発見された抗ミトコンドリア M2 抗体陽性 Fanconi 症候群の 1 例

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