消費のトレンドは「モノ」「コト」「トキ」「イミ」と来て、今は「エモ」?

モノ消費:商品の所有を重視する(商品そのものの機能性やブランド価値などを求める)
コト消費:体験や経験を重視する
トキ消費:特定のタイミングでしか体験できないことを重視する(非再現性、参加性、貢献性)
イミ消費:商品を持つことよりも、消費における社会貢献や他者支援、環境保全を重視する
エモ消費:共感やうれしさといった感情(エモーショナル)を重視する(応援消費、物語消費、商品自体よりも周辺の世界観などを求める、必要かどうかは考えない、よくわからないけどなんとなく買っちゃう)

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 私事ですが、中高年を対象にした、Z世代とのコミュニケーションの取り方に関する本を手掛けています。

Z世代とは、1990年代半ばから2010年代序盤に生まれた世代で、2023年現在12歳~28歳前後の年齢層に当たります。デジタルネイティブ、SNSネイティブとも呼ばれるZ世代は、タイパ(タイムパフォーマンス)重視の効率主義、強い仲間志向、仕事よりプライベート重視、多様性を重んじるなど、従来の若者以上に特徴的な価値観を持っています。

 私はZ世代(=子どもたち)と暮らしていて、スマホとそれに付随するサービス(SNSなど)が生まれたときからある世代と、そんなものはなかった世代との差は、常々感じてきました。
 また、80代で亡くなった義母の荷物を整理している際にも、あまりの物の多さに、自分との価値観の差を実感したものです。

 そんな日常から、時代とともに消費のトレンドも移り変わることは、肌身に染みています。

 Z世代を理解するためのキーワードの一つである「エモ消費」について調べる中で、興味深い記事がヒットしました。


 記事タイトルにある「ヴィレヴァン」は、「遊べる本屋」をキーワードにした雑貨店兼書店であるヴィレッジヴァンガードの略。ヴィレッジヴァンガードは1986年創業で、当時はかなり話題になっていたので、関東に出店した際には私も足を運びました。
 そんなヴィレッジヴァンガードが、「黒字化と赤字転落を繰り返し、経営の足取りはふらついている」という事態だそうです。

 不調の原因として、記事では次の2点が挙げられています。
①ヴィレヴァンを支える「サブカル」という言葉が曖昧になり、その空間も曖昧になった。
②「世界観」を強く訴求することと、消費者のニーズに齟齬がある。
 
 ②の「世界観」と共通するのが、「押し付けがましさ」だと筆者の谷頭和希さんは述べています。比較されている企業がドン・キホーテとブックオフ。
 
 ドン・キホーテもヴィレッジヴァンガードも、ごちゃごちゃした迷路のような店舗デザインで、特徴的な宣伝POPがある点でも似ています。コト消費の場だったと考えられますね。ごちゃついた空間で商品探しという経験も消費していたというわけです。

 ブックオフについては、本と雑貨を扱っている点で、商品が共通しています。また、「平成を支えてきたカルチャー企業」という見方もあるようです。
 
 ドン・キホーテもブックオフも、時代の変化とともに商品のラインナップなどを変えてきたと谷頭さんは述べていました。
 確かに、近所のブックオフではオモチャや衣類などが大量に置かれていて、本については立ち読みしている人はいるものの、購入している様子はほとんど目にしていません。実は私も、雑貨など本以外の商品ばかりを買っています、ブックオフという店名なのに。

 私自身は本を作る仕事をしてきましたが、本の存在自体、「押し付けがましさ」の塊といえるかもしれません。物知りやえらそうな肩書きを持つ著者が「教えてやる」という態度で文章をまとめているという側面があり、エモ消費で重視されている共感やうれしさは軽く見られている気もします。

 また、80代で亡くなった義母の荷物からは書道に関する本が大量に出てきて、これはどちらかというとモノ消費の傾向が強いと私は思いました。「本を並べる=インテリジェンスな雰囲気を出せる」という、一種のブランド効果ですね。読むこと以上に持っていることに価値を感じていたのでしょう。そんなとらえ方自体が、エモが重視される現在だと古臭いというわけです。
 
 デジタルネイティブのZ世代には、「押し付けがましさ」だけでなく、物理的に邪魔になるという点でも、本の価値は下がっているのかもしれません。うちの高校生は、紙の辞書ではなく電子辞書を使っています。
 加えて、本の著者や編集者が醸し出している自己顕示欲や、「本は文化だ!」「読んでわからない奴は頭が悪い(あくまでもニュアンスで……)」という選民感も、共感を重視する世代においては鼻つまみものなのでしょう。そんな本にこだわっているヴィレッジヴァンガードだから、苦境に陥っているという可能性もあります。そして本を作ることを生業にしてきた私も、やはり苦境といえます。

 最後に、何の脈絡もありませんが、エモいネコの寝顔の画像を置いておきます。言葉はいらない、最強の存在だな……
photo/ぱくたそ


■参考資料


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