高校入学前の春休みに、ナイチンゲールの『看護覚え書』を読んで感想文を書く課題が出たとしたら

 中学校を卒業したばかりの子どもたちにとっては、ナイチンゲールの『看護覚え書』を読むこと自体、苦行ではないかと。ボリュームたっぷりで、文章のリズムも「今どき」ではないからです。
 また、「ナイチンゲールの愚痴(後述)」が散らばっていて、スッキリと整理された文章とはいえません。
 示唆に富んでいて、内容が充実していても、この年齢の子どもたちが感想文を書くのはきついのではないかと。

 そこで、あくまで子どもたちが(経験豊富ではない)、あくまで「感想文」を書くのなら(レポートではない)、あくまで参考までに書き方を伝えたいと思いました。

 ポイントはたったの3つです。
1 本の内容と、自分の過去の体験を重ね合わせる

2 自分が変わろうとしている決意表明で締めくくる

3 本の内容をまとめたり、説明したりしない

 感想文での誤解が多いのは、「3 本の内容をまとめたり、説明したりしない」のところですね。
 春休みの課題である感想文を読むのは、高校教師でしょう。当然、すでに、何度も『看護覚え書』を読んでいるはずです。人生経験も豊富です。
 そんな高校教師に、中学校を卒業したばかりの子どもが、本の内容をまとめ直して伝える必要はないのです。ましてや、説明しようとするなんて、おこがましい。
 課題を出した高校教師が求めているのは、純粋な感想ではないでしょうか。
 うまくなくたっていい。
 たどたどしくていい。
 ありのままでいい。
 等身大の「中学校を卒業したばかりの子ども」で、感想文は書いてほしいと思います。


 

【ミッション】付箋を貼りながら、『看護覚え書』を読もう!

 まず、読み飛ばしでいいので、軽く全部読んでみましょう。

 「えー!!」
 不満の声も聞こえてきそうですが、パラパラでいいんです! 読書が苦手という子どもの中には、「真面目に、しっかりと読み込まなければならない」という姿勢の持ち主がいます。そのため、「本を読むと、とても疲れる→本が嫌いになる」と、出版業界にとって悪い方向へ進みがち。
 もっと楽に読んでいいのですよ~

 「不真面目でよくても、全部読むのは嫌」「無理」
 そんな場合は、目次を見て、「これなら、いけそう」という章だけ、軽く読んでみましょう。

 パラパラと読んだときに、「あっ! この言葉は知っている」「これに似たことを、知っている」「こういうこと、過去にあった」、逆に「えー! あり得ない」など、ちょっと目が留まった箇所に付箋を貼るか、しおり(ちぎった紙でもよい)を挟みます。

 付箋を貼るのは5枚まで。貼り過ぎは、意味がありません。

 本を読み進める中で、「もう付箋を5枚貼ったんだけど、今読んでいるところのほうがいいな」と思ったら、前に貼ったものをはがして貼り直しましょう。

【質問】5枚の付箋を貼った箇所で、自分にとって印象の強かった順位を検討しましょう

 付箋を貼った5カ所で、「あなたのベスト5」を、素早く1位から5位までランク付けします。考えるとわからなくなりがちなので、直感が大事。

【ミッション】1位についてメモを取りましょう

 1位の箇所について、実際に自分がやったこと、思ったこと、抱いた気持ちを、紙にぐちゃぐちゃに書きます。
 メモを取る上で大切なのは、「後で読める程度に、汚く書く」。メモを取る際に重要なのは「疲れない」ことなので、ラフなほうがいいのです。

 1位の箇所のメモの分量がかなり多くなったのならば、メモはこれで終了。「1位だけだと、感想文には足りないかな」と思ったら、2位についてもメモを取ります。

 文章を書き慣れていると、どのくらいメモを取ったら、提出する際に必要な文字数が書けるのかがわかるのですが、その判断は難しいですよね。
 まずは2位までメモを取ったら、感想文を書き始め、足りなければ3位・4位・5位のメモを取るというのが、手っ取り早いかもしれません。


【質問】どんな書き出しがいいですか?

 書き出しにはいくつかのパターンがあるので、自分が好きなものを選びます。
 ちなみに「筆者に語りかける」という書き出しもありますが、ちょっと恥ずかしい感じがするということと、『看護覚え書』には向かない感じもするので紹介しません。

※「筆者に語りかける」書き出しは、以下で紹介しています。

 例えば、『看護覚え書』「5.変化」の「病床に一束の野の花が届けられたときのこと」が1位で、メモには「花で回復が速くなる?」「お見舞いに花束って、普通だよね」などと書いたとしましょう。

○書き出しパターン1 「あなたのベスト5」の第1位から、1文、あるいは言葉を抜き出す
〈例〉
 「野の花の小さな一束が私に届けられたとき、その瞬間から回復がずっと速くなったことを私は覚えている」
 祖母が入院する病院にお見舞いに行くときには、母は花束を買っていました。「お見舞いなら花束」というのは、あまりにも当たり前のことなので、母自身、花束を渡すことにどんな意味があるか、またどんな効果があるかなどは考えていなかったと思います。そして私も、花束について特に考えることはありませんでした。
 しかし……

○パターン2  読み手(高校教師)に話しかける
 これは定番の「あのね、先生」方式です。まだ高校教師に会ったことはないでしょうから、ぼんやりと思い浮かべて、教師に話しかけるようなイメージで書き始めましょう。
 
〈例〉
 第5章の「変化」を読んで、私は驚きました。ナイチンゲールが活躍した時代は、病室に花などの植物を置くのが健康によくないと考えられていたからです。
 現代では、お見舞いに花束を持っていくのは当たり前ですが、昔はそうではなかったということを、『看護覚え書』を読んで初めて知りました。

【ミッション】書き出しを「あなたのベスト5」の第1位のメモにつなげましょう

 書き出しの後に、メモに取った内容を続けて書いていきましょう。上の〈例〉のところでも、少し文章化しています。

【ミッション】自分が変わろうとしている決意表明で締めくくりましょう

 締めくくりは、がんばって『看護覚え書』と結びつける必要はありません。看護科の3年間で学びたいことを、きっと受験の面接時に話したはずなので、それを改めて感想文に書いてもいいでしょう。
 これから看護を学ぶということは、「自分が変わる」ということ。今のままの自分でいいと思っていたら、誰も勉強なんかしませんからね。


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 ナイチンゲールの『看護覚え書』については、医師や看護師を取材したり、老親が入院・入所したりした経験がある中高年の『クラナリ』編集人は、とても興味深く読みました。年齢を重ね、看護の現場を見聞きする機会もあったため、「ほう、これを言い始めたのはナイチンゲールだったのか!」という発見があるからです。
 また、ところどころ、ナイチンゲールの愚痴というか、「小説家などが勝手に"看護師とはこんな女性だ"とストーリーを作り上げて、けしからん!」といった内容もあり、当時の看護の様子も垣間見えて面白いのです。

 中学校を卒業したばかりの子どもたちにとっては、どうだろうかと(冒頭に書きましたが)。ある高校の看護科で、入学前の課題に「『看護覚え書』の感想文」が出ていることを知り、ちょっと考えてしまったのです。
 あまりに負担が大きいと、「『看護覚え書』=つらい」というイメージがついてしまって、今後、『看護覚え書』を敬遠する可能性もあるかなと。それはもったいないですよね。


 ナイチンゲールが活躍する前と後とでは、看護のあり方が大きく変わりました。「白衣の天使」と呼ばれたナイチンゲールですが、変革者でもあったのです。
 「人間の体が病気やケガから回復するというのは、どういうことなのか」
 手術して悪い箇所を除去する、薬剤を使うといった医療行為とは別に、もともと体に備わった力を引き出す看護も、大きく関わっています。看護師というのは、とても重要な存在で、医師を単にサポートするという立場ではありません。

 長々と書いてしまいましたが、これから看護師を目指す皆さんにエールを送りたいです! 
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