なぜサプリメントで腎障害などの健康被害が起きたのか その2    「紅麹」以外のサプリメント、そして薬でも食品でも注意が必要かも

※フリーランスの編集者・ライターである『クラナリ』編集人(バリバリの文系)は、腎臓に関する記事や書籍に携わる機会が多いため、それに関連していろいろと考察しています。素人考えですが。 

1日3粒。サプリを飲み始めて数週間後、尿の色が濃くなりました。次第に尿が出にくくなり、激しい腹痛に襲われるようになったといいます。

「おなかが痛くて、尿が出なくて溜まっていく。日に日にきつくなっていた。」過去に泌尿器系のトラブルはありませんでした。尿や腹痛の原因はわからず、それでも男性はサプリの摂取を続け、購入した2パックを飲みきったということです。

去年9月には通院、10月には入院して、手術を受けたということです。

 紅麹のサプリメントをのんでいた40代の男性(おそらく会社員)へのインタビューが、ネット記事で紹介されていました。

 素人考えですが、症状が尿細管間質性腎炎(間質性腎炎)に似ています。厚生労働省のサイトでは、以下のような注意喚起が行われています

医薬品を服用後に、次のような症状がみられた場合には、放置せずに、ただちに医師・薬剤師に連絡してください。
「発熱」、「発疹」、「関節の痛み」、「はき気、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状」など
また、これらの症状が持続したり、その後に「むくみ」、「尿量が少なくなる」などが見られた場合は、すぐに医療機関を受診してください。

厚生労働省腎疾患対策ポスターより


 尿の色が濃くなる原因は、脱水など幅広く、それだけで心配し過ぎるのはストレスのもと。私が取材した医師は、「尿の見た目だけで素人判断はできない」と話していました。
 それよりも、腹痛や尿が出にくい(乏尿)といった状態は、放置してはいけなかったと考えられます。

 ただ、私たちはサプリメントが重篤な症状を引き起こすとは思わないものです。食中毒を起こした「糸引きマフィン問題(後述)」と共通するところで、「まさか、焼き菓子のマフィンが腐敗するなんて」と思い込んで糸を引いていても口にしたように、「まさか、健康に役立つサプリメントが腎臓を傷害するなんて」と思い込んでいたから、体調が悪化しても摂取し続けたのだと推測できます。

 今回のサプリメントについては、カビ毒か何かの有害物質が消化器で吸収されて血液に乗り、心臓から腎臓に送り込まれて糸球体で濾過され、濾過された後の「原尿」が尿細管を通った際にトラブルが起こったのでしょう。

 有害物質によって尿細管の内側が炎症を起こし、尿細管の細胞(上皮)がはがれ落ちると、タンパク質(Tamm-Horsfall protein、THP)などと一緒に固まって、尿細管が詰まることがあるようです。
 シンクを例にすると、排水管に細かい傷が入ってはがれた破片が、その他のゴミと一緒に固まっちゃう状態。
 尿細管の管の形に塊ができるので、「尿細管円柱」と呼ばれているようです。

 排水管の中でゴミが固まると、排水は流れなくなりますよね? 結果として、シンクに水がたまりっぱなしになります。

 尿細管の場合は、尿細管円柱がたくさんできると内部の圧力が高くなります。そのために、糸球体で血液が濾過されにくくなります。つまりは、老廃物がふるいにかけられずに残ってしまった血液が、腎臓から心臓に戻って、全身を巡ることになるわけです。

 それとは別に、有害物質によって尿細管が炎症を起こすと、尿細管が壊れてしまう「尿細管壊死」が引き起こされることもあります。
 シンクを例にすると、排水管がなくなっちゃった状態。そこに排水を流したら、シンク下の収納庫は排水まみれになりますね。
 尿細管の場合は、尿細管の周りにある「間質」という組織に原尿が染み込んで、毛細血管に原尿が戻ってしまいます。

 「原尿」は、「尿」といっても、もともとは血液の液体部分なのです。
 健康な状態では、原尿が尿細管を通る際に、水分や電解質、ブドウ糖など、体にとって必要なものだけが取り込まれて毛細血管に戻されています。
 この働きのおかげで、やけ酒・やけ食いをしても、私たちの体液は一定の状態で保たれ、脳や心臓といった臓器が正常に動けているわけです(やけ酒のときの脳が正常といえるかどうかは、ひとまず置いといて)。

 尿が出にくいということは、本来は排出されなければならない老廃物が体を巡っている状況ということ。
 シンクを例にすると、キッチンのコンロも床も排水まみれの状況になります。料理なんて、とてもじゃないけど、できませんよね。

 1日当たりの尿量が400ml以下になるのは、腎機能が急激に低下した急性腎障害(AKI)のサインといわれています。
 京都大学のサイトには「慢性腎臓病(CKD)からの回復は困難ですが、急性腎障害(AKI)ではしばしば完全な回復が認められます」と書かれていました。
 ですから「異常を感じたときに、サプリメントの摂取をやめていたら……」と思わずにはいられません。

■参考資料
薬剤性間質性腎炎の場合は,薬剤が尿細管細胞あるいは基底膜の蛋白と結合し免疫系から異物と認識され抗体や感作リンパ球が尿細管細胞や基底膜に攻撃を加え尿細管と間質においての炎症がはじまる。この炎症の発症・進展には補体や各種のサイトカインも関与する。アレルギー反応は全身性に起きることが多いので,アレルギー性間質性腎炎の随伴症状として発熱,発疹,関節痛,下痢などが高頻度に認められる。腎機能低下に伴う乏尿や尿の混濁や血尿が見られることもある。原因薬剤服用後どのくらいの時間がたったら出現するのかが問題になるが,答えとしては多くの場合服用開始後1ヶ月以内であるが,数日から数年後に起きてもよい。治療としては一般にステロイド剤を用いるが,薬剤を中止するだけでも多くの症例は改善に向かう。


1.腎不全 2.急性腎不全の発症機序,進行因子

尿沈渣 円柱の生成と出現意義

YANAGITA GROUP 柳田グループ
腎臓は一旦悪化すると修復できない臓器だと言われていますが、それは必ずしも正しくありません。慢性腎臓病(CKD)からの回復は困難ですが、急性腎障害(AKI)ではしばしば完全な回復が認められます。腎臓には生来、再生するメカニズムが備わっていると推測されますが、その全貌は解明されていません。
近位尿細管は腎臓の大部分を占め、AKIで障害されやすい部位に当たります。AKIの回復期には、細胞増殖が起こり、障害された尿細管が修復されます。

※糸引きマフィン
 糸引きマフィンとは、内容物が糸を引き、食べると腹痛や嘔吐など食中毒を招いたマフィン。当時、東京・目黒区に存在した焼き菓子店「Honey×Honey xoxo(ハニーハニーキス)」が、イベントに出店した際に販売したものです。女性店主1名だけで製造から販売まで行っていた模様。

 11月11・12日に東京ビッグサイトで開催された「デザインフェスタ」で、フードエリアに出展していた焼き菓子店のマフィンで食中毒が発生し、大騒動となった一件。また新たな問題が発生し、騒動はさらに尾を引いている。

 ことの経緯をおさらいしておくと、問題となったマフィンは東京目黒区の焼き菓子店が販売。購入した人たちからは、SNSで「納豆みたいな匂いがする」「糸が引く」などの指摘があり、腹痛や嘔吐、下痢などの症状を訴える人が相次ぐとともに、Xには「デスマフィン」がトレンド入りした。

「マフィンを販売していた店は2017年にオープンし、SNSでは『防腐剤、添加物不使用で市販の焼き菓子の半分以下の砂糖の量で作って』いると謳っていました。
 イベントでは約3000個のマフィンを販売していましたが、相次ぐ指摘を受け、同店はXで《保管場所は18℃以下を保っておりましたが、外気温が高かったため何個か傷んでしまった可能性がございます。検品はしていたのですが、気付かず販売してしまい申し訳ございません》などと弁明。その後、事態の広がりを受け、14日になって保健所に報告していました」(週刊誌記者)


 問題視されたのは、店主の知識のなさです。
販売店のSNS イベント5日前の投稿:「1人で製造をしておりますので、5日間ずっと製造しないと間に合わないため、製造し続けておりました」

店の担当者(SNSから):「保管場所はクーラーをガンガンにかけて18℃以下を保っておりましたが、外気温が高かったため、何個か傷んでしまった可能性がございます」



 素人だと「まさか、焼き菓子のマフィンが腐敗するなんて」と思うのかもしれません。常温で置いておくことも、きっとあるでしょう。そんな素人感覚で食品を作り、販売したことが今回の騒動を招いたのです。
 マフィンについては、セレウス菌による食中毒だと考えられています。ちなみに、カレーでの報告も少なくありません。
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