これからの市川市民として 「ただ老いる町」「新陳代謝する町」の話がしたい その12 国府台の「市川リトリート」としての可能性
歴史的に見ると、市川は東京のリトリートという役割を果たしていました。
リトリート(Retreat)とは、避難、隠れ家などを意味します。ひいては、静養などのために、仕事や家事、身近な人間関係といった日常から離れて、自分だけの時間を持つことを指すようになりました。
『クラナリ』では2019年に「市川リゾート・市川リトリート・市川リノベーション構想」を打ち出したのですが、市川リトリートについては、国府台という土地柄から導かれた、必然的な発想だったようです。
国府台にある式場病院のホームページには、次のように書かれていました。
自然ゆたかな市川市国府台の小高い丘の上に建つ式場病院は、80年以上の歴史をもつ精神科単科の病院です。
創設者・式場隆三郎の「精神科病院においては療養環境が治療上の重要な要素となる」という考えを重視していることから、院内にバラ園をつくり、病棟内を明るく安全清潔に整備するなどし、全般的に美的雰囲気が漂う空間にすることを心がけています。来院・入院される患者さまは、こうした気持ちの安らぐ環境のなかで最新の医学的知見に基づいた治療と精神科リハビリテーションを受けることができるため、より効果的な回復をめざしていただけます。また、症状が重く完全な治癒が困難な方も、いい環境とwellbeingの思想に沿った治療との相乗効果によって疾患を抱えながらの就労や普通の生活ができるようになる可能性を高めていただけます。
1936(昭和11)年に創設された式場病院。
昭和の初めは、「精神病院」という言葉に対するイメージはかなり悪いものでした。精神障害者については家族が「恥」と捉えて、土蔵などに隠しておく存在でした。そのため、精神病院も「暗く、閉鎖的な施設」「閉じ込められる」というイメージが強かったのです。
法の改正などで精神障害者への医療体制が変化したようですが、大きな転機として論文その他で挙げられているのが、1984(昭和59)年の宇都宮病院事件です。宇都宮病院で、入院中の患者が看護職員から暴行を受けて、死亡する事件が起こりました。この事件をきっかけに精神衛生法が改正され、1987(昭和62)年に精神保健法が制定されました。
歴史を振り返ると、昭和60年代までの精神科の病院は、患者だけでなく職員にとっても、閉鎖的で厳しい、ストレスフルな環境だったのだと推測できます。こうした時代において、1952(昭和27)年にバラ園が併設された式場病院は、非常に珍しい存在だったのではないでしょうか。
心と体を癒すリトリートとしての発想は、国府台の式場病院で昭和20年代に生まれていたといえそうです。
そんな国府台は、市川市内で最も早く人口増が始まったエリアのため、高齢化や空き家問題も最も早く進んでいます。同時に、式場病院や、「肝炎・免疫研究センターおよび精神医療とくに精神救急と児童精神においてナショナルセンターとしての役割を果たす」国府台医療センターなど、医療機関があるエリアであり、緑豊かな学園都市です。
医療
国立国府台医療センター
国際医療福祉大学市川病院
式場病院
文教
東京科学大学国府台キャンパス 医科歯科系の学生に向けた、教養教育の場
和洋女子大学
千葉商科大学
千葉県立国府台高等学校
和洋国府台女子中学校高等学校
※国府台女子学院の所在地は菅野(ちなみに学校法人平田学園で、国府台・菅野・平田と町名が……)
文化(宗教)
總寧寺
泉養寺
即随寺
回向院市川別院 ギャラリー併設
公園
里見公園
2年前に『クラナリ』編集人は終末期医療の書籍を担当したのですが、その際に薬(特に鎮痛薬)や医療機器のアップデートについていくこと、家族関係や家族観を更新すること、さらに、死生観なども含めたスピリチュアルな部分も、終末期を過ごすには必要だと実感しました。老いと死は、理屈だけでは割り切れないからです。
高齢化が進む中で、「一人暮らしの高齢者」「認知症」の割合が増える未来のまちづくりで、医療は中核となるでしょう。そして、「よりよく生きる」「自分らしく生き切る」という観点においては、スピリチュアルな部分も含めた癒しが求められます。
まちづくりでは「街のにぎわい」が成果の指標にされがちですが、高齢化率・空き家率が高い国府台にはリトリートという別の可能性が秘められているように思えるのでした。
なお、市川市民の花がバラに決定したルーツは式場病院のバラ園にあると、市川市花と緑のまちづくり財団のサイトで説明されています。式場病院については、『クラナリ』編集人は近くを通りがかったことはあるものの、中に入ったことはなかったので、バラの季節に訪ねてみようと思っています。
■主な参考資料
市川市花と緑のまちづくり財団
精神保健福祉の歴史

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