産後すぐの糖質制限は危ない!? スウェーデンでは救急搬送の例も

糖質摂取量の減らし過ぎは
命の危険さえ伴うことも
 糖質制限がテレビや雑誌など多くのメディアで注目を集め続けています。

 過去にも「主食抜きダイエット」「ローカーボダイエット」「アトキンス式ダイエット」「低インスリンダイエット」などとさまざまな名称で、糖質制限はブームを起こしてきました。糖質制限には確かな根拠があるし、ダイエット成功者の報告が多数あります。減量法としてはすばらしいでしょう。

 ただし、出産直後の女性については、糖質制限で心身の健康を損なうかもしれません。『マタニティ・ブルー』(誠信書房)では、糖質が不足することで産後うつが引き起こされる可能性があると報告されています。

 さらに、スウェーデンでは授乳期の女性が糖質制限によって命の危機に陥り、救急搬送されたと過去に報道されていました。

 早く元の体重に戻りたいと、産後すぐにダイエットに取り組む女性はたくさんいます。しかし、糖質の摂取量を減らし過ぎれば心のバランスを崩し、命の危険さえ伴うかもしれません。
 
過剰な糖質制限で
「自然の抗うつ剤」が効かなくなる

 『マタニティ・ブルー』の著者は、イギリスの婦人科医であるキャサリーナ・ダルトン医師(1916-2004年)。

 ダルトン医師は、1953年にPMS(月経前症候群)に関する医学論文をイギリスで初めて発表。PMSおよび産後抑うつ症に関する世界的な権威であり、それらの治療・研究によってチャールズ・オリバー・ホーソンBMA賞、アップジョン・フェローシップ、シャーロット・ブラウン賞、ロイヤル・フリー・ホスピタルからのカレン賞、ロイヤル・カレッジ・オブ・ジェネラル・プラクティショナーズからの英国片頭痛協会賞などを受賞しています。

 「抑うつ症」とは、気分が沈み、意欲がなく、悲しく不安で絶望的になっている精神状態です。この記事では産後抑うつ症を「産後うつ」と表記します。

 産後うつには、果てしない消耗、不合理ないらだち、時間や場所がわからなくなる失見当識、自分の子どもへの拒絶、そして母親の自殺が含まれています。

 『マタニティ・ブルー』では、500人の妊婦を対象に産後うつの調査が行われたことが紹介されています。そして500人中7%の母親が重篤な産後うつになり、その特徴が「妊娠中にはなやぎ、幸福と生気に満ちあふれた女性」だったそうです。

 妊娠期間には全く問題がないと思われていた女性たちが、重い産後うつに陥ってしまったのです。エネルギッシュで明るい人だから大丈夫と安心してはいけません。

 1985年にサンフランシスコで行われたマルス学会の大会で、産後うつが3カ月後に発症するタイミングとして以下のものが挙げられていたと『マタニティ・ブルー』で記述されていました。

○授乳をやめたとき
○月経が再開されるとき
○ピルの服用を始めたとき
○夜勤の仕事を始めたとき
○体重を減らすためのダイエットを始めたとき

 注目すべきは5番目のダイエットです。

 どうしてダイエットで糖質の摂取量が減ると、産後うつになりやすいのでしょうか。
 その答えは女性ホルモンのプロゲステロン(黄体ホルモン)にあるとダルトン医師は説明しています。妊娠中の女性は、血液中のプロゲステロンが通常の50~100倍と高い数値で見られますが、分娩後数時間で低下。これほど激しいホルモンの変動で、体が混乱しないほうが不思議です。

 血液中のプロゲステロンは、プロゲステロン受容体の働きで細胞の中に運ばれます。このとき、細胞内の糖(ブドウ糖)が欠乏していると、プロゲステロン受容体はプロゲステロンではなくグルココルチコイド(糖質コルチコイド)というホルモンを細胞に運び込もうとするのです。

 プロゲステロンは自然の抗うつ剤と見なせると、ダルトン医師は語っていました。理由は、プロゲステロンはモノアミン酸化酵素の形成を阻止する働きをするからです。
 モノアミンとはドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン、セロトニン、ヒスタミンなどの神経伝達物質の総称。ドーパミンは「やる気ホルモン」、セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれています。「やる気ホルモン」「幸せホルモン」の働きを失わせる酸化という化学反応を、プロゲステロンは起こりにくくするのです。

 過剰な糖質制限で、自然の抗うつ剤であるプロゲステロンが細胞に運び込まれなくなることが、産後うつを招くメカニズムの1つと考えられています。

「あなたのままでいい」という
温かいメッセージを送ってほしい

 スウェーデンでは産後に糖質制限を続けていた女性が突然倒れ、命の危険もあったことが、症例報告のオンライン・データベース『Journal of Medical CASE REPORTS』2015年10月1日付で発表されました。

 患者は、産後10カ月の息子を母乳で育てている32歳の女性。吐き気と嘔吐、手足の震え、筋肉のけいれん、動悸といった急激な体調の異変を訴えて病院に救急搬送されました。

 彼女は摂取する炭水化物の量を1日当たり20g未満にするなど、糖質制限を続けていたのです。体重は4kg減りましたが、体調は著しく衰えていったといいます。

 彼女を診察した医師は、体液が酸性に傾く「ケトアシドーシス」の状態で、昏睡して命を落としていたかもしれないと説明。患者の女性は入院3日後にケトアシドーシスから抜け出せたそうです。

 国は変わって台湾では、産後すぐに薬を使ってダイエットに取り組んで突然死した女性の例が報告されていました。洋の東西を問わず、産後の無理なダイエットは危険性が高いといえそうです。

 日本だと「ママでもアイドル」の「ママドル」が多数出現。「ママでもキレイ」「ママでもスリム」「ママでもキャリアウーマン」といった活躍は喜ばしいことですが、妊産婦に過剰なプレッシャーを与えていないでしょうか。

 産前産後のホルモン変動などの知識を女性たちに伝えるとともに、「キレイ・スリムでキャリアがあるママドルになる必要はない。あなたはあなたのままで魅力的」といった温かいメッセージを送ることも、産後うつを防ぐために大切です。


●参考文献
『マタニティ・ブルー』キャサリーナ・ダルトン 誠信書房

New mother nearly DIES from a low carb diet: 32-year-old developed life-threatening condition after ditching bread, rice and pasta while breastfeeding
http://www.dailymail.co.uk/health/article-3262230/New-mother-nearly-DIES-low-carb-diet-32-year-old-developed-life-threatening-condition-ditching-bread-rice-pasta-breastfeeding.html

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