「真間」をアイヌ語の訛りというのは、さすがに無理でしょう問題

真間山弘法寺

 世の中には、土地の歴史や地名の由来が気になって仕方がない種類の人間、平たく言うと「物好き」が少なくないようです。私もその一人です。

 市川市のサイトでは、市内の地名の由来が紹介されているのですが、以前からモヤモヤしている記述がありました。それがタイトルにもある「真間 アイヌ語『メェメェ』の訛り?」というもの。
http://www.city.ichikawa.lg.jp/common/000276532.pdf

 地名がつく経緯について、そこに住む人たちがなんとなく呼んでいた名前が、そのままついちゃったケースが多いのではないでしょうか。大きい川は「大川」、新しく開発された田んぼは「新田」、宿場町は「新宿」などがこれに当たります。

 真間の由来がアイヌ語だとしたら、この地にアイヌ民族の大きな集落があり、長く暮らしていた形跡がなければおかしいですよね。
 というわけで、いくつかアイヌ民族の資料を当たっていたところ、「なるほど!」という事実にたどり着きました。


 『アイヌ語地名と日本列島人が来た道』(著/筒井功 河出書房新社)に以下の記述があったのです。
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 日本全国どこの地名だろうと現代アイヌ語で解釈して、これもアイヌと、あれもアイヌ語だとする論は、今も絶えることがない。
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 例えば、過去に若者が大いに使っていた「まじ卍」は、「卍」が寺院の地図記号であることから、これは仏教に由来する言葉だと説明するようなものです。
 かなり大アホの理屈ですが、それを真剣にとらえている人々も少なくないということでしょうね。

 明治時代、イギリス出身の日本研究者バジル・H・チェンバレンと、イギリス出身のキリスト教宣教師でアイヌ研究者のジョン・バチェラーが、語呂合わせ的に日本の地名をアイヌ語に当てはめたとのこと(p160)。
 研究者というよりも、趣味人、好事家というレベルです。

 それを踏まえて「真間」という名字がどこに多いのかを私は調べてみました。地名にちなんでつけられた名字が多いといわれているからです。

 すると、神奈川県が最多で、およそ390人の名字が「真間」とのこと。ちなみに北海道は第5位でおよそ10人。
https://myoji-yurai.net/searchResult.htm?myojiKanji=%E7%9C%9F%E9%96%93

 アイヌ民族が最も多い地方の名字にも使われていないのに、「真間」がアイヌ語の「メェメェ」の訛りだとは、到底考えられません。

 ちなみにウィキペディアには、以下の記載がされていました。
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万葉集にはすでに登場し、崖線、土手の崩れ等の意味を持つ上代日本語「ママ」に由来する
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 やはり、「真間アイヌ語訛り」説は、安易で恣意的な解釈といえそうです。
狩猟採集社会を続けてきたアイヌ民族(『アイヌ文化の大研究』より)



 話は脱線しますが、『アイヌ語地名と日本列島人が来た道』の後半では、DNA解析によって人類のルーツが解明されつつあることを指摘していました。

 過去に私は『交雑する人類 ― 古代DNAが解き明かす新サピエンス史』(著/デイヴィッド・ライク NHK出版)を読んでいました。
 化石となった古代人の人骨からDNAを取り出して解析することができるようになった「ゲノム革命」。以前はミトコンドリアDNA解析でしたが、2009年以降は全ゲノム解析が可能になったわけです。ミトコンドリアDNAによってたどれる過去は約16万年前までですが、全ゲノム解析では100〜500万年前にまでさかのぼることができるとのこと。

 ゲノム解析でわかってきたのは、「アイヌ民族と琉球民族って似ているよね」「もともと日本に住んでいた縄文人の特徴が残っているんだよね」といった二重構造説が、どうやら無理があるということでした。

 私たちは何かの権威をありがたがるわけですが、信じ込むのにはリスクがあることと、ほかの説についても学ぶ姿勢が大切であることを実感した次第です。
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